愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
 アルファは優秀で、若くして社長をしていることがよくある。ほかには弁護士やパイロットなど、女性が憧れる職業についていることが多い。
 彼女は花純の婚約者がアルファの女性であることを知らない。もし知ったらなんて言うんだろう。アルファなら女性でもいい、と言うだろうか。
 ロッカーの中を見る。今日の服も雅からの贈り物だ。着ていると雅の愛に包まれているようで安心感があった。バッグについている猫のチャームもプレゼントだ。
 引っ越したばかりのころ、一人で買い物に出た花純は帰り道がわからなくなってしまった。泣きそうになって雅に電話して迎えに来てもらった。
 翌日、雅は猫のバッグチャームを買ってきた。
 子猫が迷子になって困っている童謡を歌いながら、雅は花純のバッグにそれをつけた。
「迷子にならないおまじないだよ」
 からかうように、彼女は言った。
「歌では迷子になってるじゃない」
「じゃあ私がお巡りさんになって君を見つけるよ。何度でもね」
 雅はそう言って花純を抱きしめた。
 それ以来ずっと、どのバッグに変えても猫のチャームをつけている。
「時間だわ」
 花純は思考を打ち切り、ロッカーを閉めて店に出た。

 バイトを終えた花純はお店でケーキを受け取り、部屋に戻った。
 それを冷蔵庫に入れて、シャワーを軽く浴びる。
 雅が買った下着を身に付け、雅が買ったドレスの中から、今日着るものを選ぶ。
 仕事に行くときは雅は黒髪をオールバックにしているが、本来はマッシュな髪型だ。
 仕事のあとのパーティーだから、きっとオールバックだ。スーツはネイビー。
 どういう趣旨のパーティーだったか聞きそびれた。落ち着いた色とデザインなら間違いないだろう。お揃いになるようにネイビーのドレスを選んだ。ミモレ丈のスカートに重ねられたレースが繊細だ。
 華やかさが足りないかな、とシルバーのネックレスをつけた。これも雅のプレゼントだ。
 次いで、婚約指輪をはめる。
かなり高いものだった。いつまでも決められない花純に業を煮やして、最初に花純が見とれていた指輪を雅が買ってよこした。
 指輪を傷つけてしまわないか、と心配になる。だが、彼女のパートナーとして横に立つのだから、婚約者としての証を身に付けていたい。
 大丈夫、私は婚約者。雅が結婚しようと言ってくれたの。
 時間になり、雅が迎えにきた。
 雅はまたいつものように彼女を褒め、パーティー会場に向かった。
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