愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
 花純はショックを受けた。
 出会って間もないが、愛してあっているのだと感じていた。
 それは花純の都合のいい思い込みだったのだ。
 確かに最初、雅は「責任をとる」と言った。
 いったんシャワールームに戻り、わざと音をたてて部屋に戻る。
 雅はもう元の雅に戻っており、不敵に優しい微笑を浮かべて花純を出迎えたのだった。
「どうしたの、元気ないね!」
 声をかけられ、現実に引き戻された。
 顔を上げると高部圭梛(たかべけいな)がいた。彼女はベータで、23歳のフリーターだ。
「婚約者とケンカでもした?」
 着替えながら、彼女がきいてくる。
 婚約は面接の時点で店に報告したから、店員たちは知っている。その相手がアルファの女性であることは伝えていないのだが。
「本人が誕生日を忘れてて。今日は二人で過ごすはずだったのに、仕事で」
「それはなえるわー」
 と圭梛はうなずく。
「でも、すごく素敵な人なんでしょう? プレゼントもたくさんくれるって言ってたじゃない」
「お金使い過ぎって心配になっちゃう」
 雅はなんでも花純に買い与えたがる。
 受け取ると、雅はとても晴れやかな笑顔で花純を見つめる。
 その笑顔が嬉しくて、最初は遠慮していた花純も、つい受け取るようになってしまった。
 髪飾りもアクセサリーも服もバッグも下着も靴下も靴も、すべて雅が買った。高くても安くても、雅は自分が買うことにこだわった。
「あなたのすべてを私のものにしたいから」
 雅の笑みを見ると、花純はもう何も言えない。
「私はあなたのものだわ」
 まるで支配するかのように愛されている。だが、その支配が心地いい。
 私のすべてはあなたのもの。
 だけど、といつも思う。
 あなたのすべてはあなたのもの。
「私も素敵な人に出会いたいな」
 友人の声で思考が断ち切れた。
「きっと出会えるわよ」
「アルファの男がいいなあ」
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