愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
彼が会場から出て行くのを見て、花純は肩から力を抜いた。
「怖かったか?」
「少し」
「安心しろ。運命の番はお前だけだ」
二人もいたら運命の番なんて言わないのに、と花純は思う。
お前だけだ、なんて言い方、まるで浮気しているみたいだ。
本当に愛しているのはお前だけだ。
定番のごまかしの言葉。
首筋を噛まれて番になった花純は名実ともに雅のものだ。
だが、雅はアルファだから番を一方的に解除することができる。番はオメガからは解除できない。そして、アルファの女性だからほかの男性も女性も愛することが可能だ。
「式を早めよう。まだ招待状は出していないだろう?」
「でも……」
式場は予約でいっぱいだ。
「今の式場はキャンセルしよう」
花純は絶望を顔に浮かべた。
今までの準備が台無しだ。式場選びからやり直しなんて。ドレスは花純の希望で式場のレンタルの予定だったし、選びに選んだメニューも何もかも白紙に戻る。また見学に行って悩んで会場を決めてメニューを決めて、宿泊が必要な参加者の宿泊施設の予約を取り直して。
宿泊の予約などは雅の秘書も手伝ってくれるが、ほとんど花純が決めなくてはならない。
「悪い、負担をかける。だが、あなたを不安にさせたくない」
雅はそう言って花純を抱きしめる。
それだけでもう、すべてを許してしまえる。
だからね、雅。
心の中で花純は言う。
だから、あなたも許して。
あなたの優しさにつけこむ私を。
花純はこみあげる涙を必死にこらえた。