愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
翌日、花純は疲れた顔でカフェに出勤した。
「疲れてるわね」
手があいたときに、圭梛が声をかけてきた。
客のピークは終わり、店内は落ち着きを取り戻している。BGMのジャズが、心地よくピアノを響かせていた。
「いろいろあって」
「仲直りはできたの?」
「それは大丈夫だったんだけど、大丈夫すぎたというか」
パーティーから自宅に戻ったあと。
雅は花純を襲うようにして体を交えた。
花純を快感の渦で翻弄し、花純がなんど降参してもやめてくれなかった。
あなたは私のものだ。よそ見は許さない。
雅はそう言って花純を愛した。
もう花純はすべて雅のものなのに。頭のてっぺんからつま先まで、全部雅のものなのに。よそ見の危険があるのは雅のほうなのに。
「心配して損した」
察した圭梛が呆れると、花純は慌てて続けた。
「でもまた心配の種ができて」
「ほかに女がいた?」
う、とつまる。どうして的確に突いてくるんだろう。
「なんでわかるの?」
「男と女のトラブルなんて限られてるからよ」
「そうなんだ。——浮気じゃないんだけど。あの人、モテるから心配で」
「婚約してるんだからどかっと構えておけばいいのに。浮気されたらたんまり慰謝料もらってもっといい男を捕まえればいいのよ」
ベータの圭梛はカラカラと笑った。
合わせて笑いながら、そんなことできないだろうな、と花純は思う。
オメガはアルファと違って番を解除されると新しく番うことはできないと言われている。
そして、解除されたオメガは番を求めて精神に異常を来たし、時には自ら死を選ぶという。
雅に番を解除されたら、私は生きていけない。
それは予想ではなく確信。雅以外の誰も、花純の番ではありえない。
「いらっしゃいませー」
圭梛が声をあげる。慌てて花純もいらっしゃいませ、と顔を上げ、驚愕に凍り付いた。
圭梛が来店者を席に誘導し、戻ってくる。
「あれ千ヶ崎紫苑よ、どうしよう!」
小声だったが、興奮を抑えきれず、圭梛は体をくねらせた。