愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
「はめさせてあげる」
 雅は花純の左手をとり、その薬指に花の指輪をはめる。
「私もはめさせて」
 雅は花純に指輪を渡し、左手を彼女に差し出す。おずおずと中指にはめようとすると、指が違う、と訂正され、薬指を示された。こわごわとその指に指輪をはめる。
「今日はこれで我慢しよう」
 雅は満足そうに花純の左手を目の前に掲げた。
「刻印は後日でも入れられるね?」
「承ります」
 女性店員は丁寧にその説明をして、指輪のケースなどを紙袋に入れて雅に渡した。
「次は挨拶だ」
 夜には花純が家族と住む家に行く。
 両親と弟がいて、着飾った花純と凛々しい雅の訪問に驚いた。
 玄関で雅は名刺を渡した。
「桜堂寺不動産の社長!?」
 父がすっとんきょうな声を上げた。
 桜堂寺不動産といえば、全国展開している大手だ。
 職業を聞いてなかった、とようやく花純は気が付いた。仕事どころか、ほぼ何も聞いていない。
「お嬢さんと結婚させてください」
 玄関で頭を下げる雅に、さらに両親は驚愕した。
ベータの弟は「オメガパワーすげえ」と呟いて父親からげんこつをくらった。
 こうして雅と花純は結婚を前提にその日から雅のマンションで同居を開始したのだった。

 バイト先のカフェに出勤し、ロッカールームで制服に着替えながら花純はため息をつく。
 現在は雅のマンションの近所のカフェで働いていた。
 衝撃的な出会いのあと、すぐに雅は結婚を申し込み、花純は承諾した。
 だが、花純には不安がある。
 彼女は雅のことを愛しているが、実際には雅はどう思っているのだろう。
 愛してる、と言ってくれる。
 だがあのとき、聞いてしまったのだ。
 初めて愛し合った日、シャワーを浴びた花純が戻ったとき。
 雅は頭を抱えて「やっちまった」とつぶやいていた。
 深い悔恨の響きがあった。
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