新人洗濯係がのぞいた秘め事~王太子の秘密を暴いた先にあるのは溺愛か死か~
 お許しください、とかぼそい声が聞こえた。
 バシン、バシンと何か叩くような音がする。

 リエーヌはすぐさま扉から身を離した。
 知らず、体が震える。

 ユリックは難しい顔をしてリエーヌの肩を抱き、彼女を誘導した。2人でそっとその場を離れる。
 落ち合った場所に戻ったリエーヌは、ようやく大きく息を吐いた。

「怖かった?」
 たずねられ、頷く。

 と同時に、自分の意気地のなさが情けなくなった。
 ひどい目にあっている人がすぐ近くにいたのに、助けにいくことができなかった。恐怖で竦んでしまった。

「今日はここまでにしよう。助けに行くにしても準備が必要だからね。よくがんばってくれた。夜道は危ない。送って行こう。本当は迎えにも行きたかったんだ」
「そ、そんな」
 いいです、とは言えなかった。少しでも長く彼といたかったから。

「気にしないで。あなたの勇気に感謝する」
 ユリックに微笑みかけられ、恐怖心は消し飛んだ。
 帰り道はあっという間だった。

 またね、と言ってユリックは歩き去る。
 その晩、リエーヌはろくに眠れなかった。
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