新人洗濯係がのぞいた秘め事~王太子の秘密を暴いた先にあるのは溺愛か死か~
「彼女にだけたくさん持たせるのはかわいそうだよ」
 召使の腕に抱える洗濯物を見て、彼は言った。

「いえ、今日はたまたま。気を付けます」
「そうしてあげて」
 言って、彼はリエーヌに向き直る。

「私はユリック・エル・ローニャックという。君とはまた会うことになる気がするよ」
 ユリックは優しく彼女に微笑みかけた。

 リエーヌはぽかん、とその顔を見た。
 エルはこの国では侯爵の名につく。つまり彼は侯爵だ。

 じゃあね、と彼はリエーヌの心に微笑を残して歩き去った。
 召使が洗濯物を早く拾えとぎゃんぎゃん言っているが、まったく耳に入らなかった。

 * * *

 翌日、リエーヌは一日中ため息をついていた。
 アデリーンに心配されたが、なんでもないです、と答えてやりごした。
 頭の中はユリックでいっぱいだった。

「素敵な人に出会ったの?」
「違います」
 同僚にからかわれ、リエーヌは慌てて否定した。
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