茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
明け透けな物言いは何とも美咲らしいが、今日は言い方がどこもかしこも棘だらけだ。それだけ木嶋は美咲にとって唾棄すべき存在なのだろう。木嶋と美咲は同じ部署なのだ。

「でも、私はスカッとしたわ。ももちゃんが木嶋さんに怯まないでしっかり自分の言いたいことを突きつけたんだから……すごいよ、ももちゃん」

美咲はそう言って百子の頭を撫でる。百子はまだ鼻をぐずぐずと言わせていたが、美咲に木嶋のことをぶちまけたお陰で幾分か頭痛も和らいでいたことに気づいた。

「そんな、すごいだなんて。本当は私もあの場で怒りたかったわよ。悔しくて辛くて悲しくて、しかもその元凶が目の前にいるってなったら目の前が真っ暗になりそうで……でもそれを怒りながら出しても私が悪者になるだけだもん。周りの人もびっくりするし。泣かれたら勝ち目ないし。何となくだけど木嶋さん泣き落とし上手そうだし」

美咲はうんうんと頷いた。

「よく分かったね。ももちゃんの言うとおりよ。あいつ、ミスを指摘しただけで泣き真似するんだから……! こっちは声を荒らげずに指摘してんのに……あいつはパワハラだとか何とか言うけど、後輩って立場を使ってそんなことする方がよっぽどパワハラだと思うんだけど!」

「パワハラって上司でも部下でも関係ないよ。権力を振りかざせるのは部下も同じだもん……」

百子の発言を皮切りに、美咲は上司や同僚の愚痴をしばらくこぼしていたが、百子のスマホが何度も震えるのを聞き、思わず美咲はそちらに顎をしゃくった。

「出なくていいの? もうこれで5回目よ?」

「……今は出たくない」

沈んだ声でスマホを一瞥し、百子は美咲の方を向いてため息をつく。

「傷心のももちゃんにこんなことを言うのも何だけどさ、話し合いしなくてもいいの? 陽翔さんは聞いてる限りだとももちゃんのことを大事にしてるのに。ももちゃんのご両親に挨拶にも行ったんでしょ? そんな人がももちゃんを裏切るのは考えにくいと思うんだけど」

百子は目線を彷徨わせて拳を握っていたが、下を向いてしまった。陽翔を信じたい思いと、あの光景を作り出した陽翔に憤りを覚えている気持ちが同じくらい声高に叫んで百子の中でせめぎ合っているのだ。

「……分かんない。分かんないの……! 陽翔を信じたいけど、陽翔のあんな表情(かお)を他の女性(ひと)に向けてるところは見たくなかった……! 陽翔が心底嬉しそうにしてるのは私の前でだけだったのに……」

そう言いながら今日のあの光景が浮かび、百子は首を勢い良く振ってそれらを頭の中から追い出した。視界が次第にぼやけていったが、固く握られた両手を、美咲の両手がふんわりと包み込むその感触だけは、ふらふらと揺れる百子の心を捉えていた。

「良かった。ももちゃんはちゃんと陽翔さんが好きなんじゃないの」
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