茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
『百子、今どこにいるんだ! メッセージ飛ばしても反応がないし、電話も出ないし、心配したんだぞ!』

怒鳴るような彼の声がして、百子は思わずスマホを少しだけ耳から離す。脱衣場兼洗面所に入り、そこのドアを閉めて正解だった。切羽詰まったような、憔悴しきったような陽翔の声を聞くだけで、百子の鼻の奥がつきんと痛むのだ。陽翔からのメッセージは10件を超えており、電話も5回以上掛かっていたのを百子は無視していたからだ。

「ごめんなさい、陽翔……どうしても友達と相談したいことがあって、今友達の家にいるの。勝手なことしたのに、連絡しなくてごめん……」

『俺だったら相談できなかったのか』

静かな怒りを含んだ声で百子はびくっとしたが、なるべく正直に言おうと百子は息を大きく吸った。

「……うん。だって陽翔のことで悩んでたから。私が陽翔に裏切られちゃったのかとばかり思い込んじゃって……家に帰りたくなかったの……陽翔のことをヒステリックに詰るのも嫌だったし」

『俺が何で百子を裏切る必要があるんだよ……! いや、別に今はそこはどうでもいいか。百子の事情が聞きたい。何でそう思ったんだ?』

「今日は陽翔よりも先に駅に着いたんだけど、ショッピングセンターから女の人と出てきたのを見たの……しかも陽翔がその女性(ひと)とキスをしたように見えちゃって……!」

百子が涙混じりの声で告白すると、陽翔がため息をついた。

『百子、あの場にいたのか……』

先程のため息も相まって、その声が何だか諦めを含んでいるようにしか聞こえず、百子の顔は段々と蒼白になっていった。

『あれは俺の妹だ。百子のことというか、結婚のことで少し相談に乗ってもらってたんだ。妹は去年結婚してるからな。あとは俺の両親の近況も聞かせてもらってた。その礼に妹の欲しいものを買ってただけだ』

百子は目を瞬かせ、彼の言葉を噛み砕いていたが、やがて飲み込めて来たようで、恐る恐る口にした。

「……え? いもうと、さん? ミントをくれた……? てっきり他に好きな人ができたのかとばかり……だって、心底嬉しそうに笑ってるし、それに……き、キスしてるようにも見えたから……」

百子は思わず間抜けな声を上げた。

(うそ……あれは陽翔の妹さん、だったの……?)

百子はへなへなと脱衣場に座り込む。安堵しても良かったが、自分が陽翔の妹を他に好きな女性ができたと早とちりしてしまったことに羞恥と気まずさを覚えたのだ。

『百子、そんなことを考えてたのか?! 俺が笑ってたのは妹に百子のことが本当に好きなんだって言われて、百子のことで頭が一杯だったからだぞ。それと確かに妹が顔を近づけてきてたが、耳打ちしかされてない。百子が心配するようなことにはなってないぞ』
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