茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「百子っ」
陽翔は思わず彼女の小さな手を握る。それはすっかり冷たくなっており、小刻みに震えていた。
「すまん……まだ辛いよな。この話はもう……」
悲壮な顔つきになった陽翔に、百子は強く首を横に振った。
「ううん……続けて? 私が話して欲しいっていったのよ? それに……」
百子は一度言葉をそこで切ったが、頬を伝う温い液体を拭おうともせずに言葉を紡ぐ。
「陽翔が辛かったこと、まだ聞いてないわ。だから、止めないで。辛いことを一人で抱えないで……お願いよ」
(百子……)
彼女の健気さに陽翔は別の意味で涙が出そうになった。百子の方が恐らくは辛い筈なのに、それでも彼女は陽翔の心の憂いを取り除くことを優先している。ここで陽翔が話すのを止めたら、彼女のその優しさにケチをつけることになってしまう。だから陽翔も一度大きく息を吸って話す覚悟を決めた。
「分かった……」
陽翔は何度か言い淀んだものの、飲み会の席で彼に例の証拠映像を見せたこと、深山が全く反省していないことをそのまま話した。陽翔が話し終えると、エアコンの駆動音だけがリビングを支配していたが、それも長くは続かなかった。
「陽翔、あの映像をずっと持ち歩いてたの……? まさかこれのために……?」
「そうだ。あと百子には黙ってたが、俺は百子の元彼のことを知っていた」
百子が息を呑む気配がした。陽翔はそんな素振りを証拠映像を見たときに微塵も見せていなかったからだ。
「百子からあの映像を貰ったときに、どこかで見たことがある顔って思ってたんだ。だから少し調べてて、今日の取引先の会社にいたって分かった。まあ元彼が担当だったのは計算外だったけどな。しかも向こうから飲みに誘ってきたから、これ幸いと話をしに行ったって訳だ」
「そう……」
(何であんな最悪で気持ち悪い映像を何回も見てたのか不思議だったけど……見覚えがあったのね)
百子は彼が顔を顰めまくっていたものの、何度も証拠映像を見ていた理由にようやく得心がいった。それと同時に、何だか申し訳無い気持ちもふつふつとわいてくる。
「別に……陽翔が手を下さなくても良かったのに」
「俺だってあいつが謝罪したらこんなことしなかったさ。でも……やっぱり反省のはの字もなかったし……それが悔しかったしやるせなかった。あれだけ百子が苦しんでるのを見て知ってて、それが目の前にいる奴の仕業だと思ったら許せなかった……百子が苦しんでたのに、あいつがいけしゃあしゃあと浮気を百子のせいにするのが、どうしても腹立たしかったんだ……!」
陽翔の声は後半になるに連れて涙に溺れてしまった。百子は自らも涙を流しながらも、そっと彼の頭を胸に抱き寄せ、彼の頭をゆるゆると撫でる。
陽翔は思わず彼女の小さな手を握る。それはすっかり冷たくなっており、小刻みに震えていた。
「すまん……まだ辛いよな。この話はもう……」
悲壮な顔つきになった陽翔に、百子は強く首を横に振った。
「ううん……続けて? 私が話して欲しいっていったのよ? それに……」
百子は一度言葉をそこで切ったが、頬を伝う温い液体を拭おうともせずに言葉を紡ぐ。
「陽翔が辛かったこと、まだ聞いてないわ。だから、止めないで。辛いことを一人で抱えないで……お願いよ」
(百子……)
彼女の健気さに陽翔は別の意味で涙が出そうになった。百子の方が恐らくは辛い筈なのに、それでも彼女は陽翔の心の憂いを取り除くことを優先している。ここで陽翔が話すのを止めたら、彼女のその優しさにケチをつけることになってしまう。だから陽翔も一度大きく息を吸って話す覚悟を決めた。
「分かった……」
陽翔は何度か言い淀んだものの、飲み会の席で彼に例の証拠映像を見せたこと、深山が全く反省していないことをそのまま話した。陽翔が話し終えると、エアコンの駆動音だけがリビングを支配していたが、それも長くは続かなかった。
「陽翔、あの映像をずっと持ち歩いてたの……? まさかこれのために……?」
「そうだ。あと百子には黙ってたが、俺は百子の元彼のことを知っていた」
百子が息を呑む気配がした。陽翔はそんな素振りを証拠映像を見たときに微塵も見せていなかったからだ。
「百子からあの映像を貰ったときに、どこかで見たことがある顔って思ってたんだ。だから少し調べてて、今日の取引先の会社にいたって分かった。まあ元彼が担当だったのは計算外だったけどな。しかも向こうから飲みに誘ってきたから、これ幸いと話をしに行ったって訳だ」
「そう……」
(何であんな最悪で気持ち悪い映像を何回も見てたのか不思議だったけど……見覚えがあったのね)
百子は彼が顔を顰めまくっていたものの、何度も証拠映像を見ていた理由にようやく得心がいった。それと同時に、何だか申し訳無い気持ちもふつふつとわいてくる。
「別に……陽翔が手を下さなくても良かったのに」
「俺だってあいつが謝罪したらこんなことしなかったさ。でも……やっぱり反省のはの字もなかったし……それが悔しかったしやるせなかった。あれだけ百子が苦しんでるのを見て知ってて、それが目の前にいる奴の仕業だと思ったら許せなかった……百子が苦しんでたのに、あいつがいけしゃあしゃあと浮気を百子のせいにするのが、どうしても腹立たしかったんだ……!」
陽翔の声は後半になるに連れて涙に溺れてしまった。百子は自らも涙を流しながらも、そっと彼の頭を胸に抱き寄せ、彼の頭をゆるゆると撫でる。