茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
百子は先程とは別の意味で回れ右をしたくなった。陽翔の双眸は真剣そのもので裕子を射抜いており、はきはきとしたその声も相まって嘘を言っているとも思えない。しかし裕子はなお不満気である。

「お互いが同じ傷を持っているから、それだけで一緒に暮らそうと言うの? それは傷の舐めあいではなくて? たかだか同棲を2ヶ月ほどしただけじゃないの」

ここで健二が同じ傷とはどういうことかと訝しんで質問したので、百子は自身の元彼が同棲していた家に浮気相手を連れ込まれ、飛び出した先で陽翔に匿われた話を詳細に伝えた。

「なんと……! 酷すぎる話じゃないか! 百子さんも辛かったね……その後に陽翔に出会ったのも何かの運命かもしれないな。僕は二人の結婚は賛成する。同じように裏切られて傷ついた君達なら、互いが互いを裏切る真似はしないと思うし、何よりも百子さんの気性が素晴らしいよ。ちょっと無茶してるとは思うけども」

健二は元彼の話をしてうつむいた百子に、悲痛な面持ちで言葉を紡ぐ。裕子はこの話を聞くのは二度目だが、流石にそこまで百子が悲惨な目に遭っていたとは思わずに盛大に眉を顰めて額を押さえた。

「想像しただけでも不愉快だわ……。辛かったですね、百子さん……私なら人間不信になりそうだわ……」

百子は打って変わって裕子が沈んだ声を出しているのを聞いて狼狽して口をわななかせる。裕子が嫌っているはずの百子に共感するなんて想像すらしていなかったのだ。

「裕子ちゃん、この二人を信じようよ。裏切られても百子さんは真っ直ぐに陽翔のことを見ているし、陽翔だって同じだと思うよ。家のことだって陽翔が言うなら申し分ないだろうし。陽翔がここまで女の子に首ったけになってるのは初めてだ。本気なのは痛いほど伝わってくるよ」

健二が二人ににっこりと笑いかけると、陽翔は少々胸を張った。

「当たり前だ。俺は百子のことが大学時代からずっと好きだった。俺が社長の息子だって打ち明けても、百子はその当時と変わらないで俺を見てくれて、一人の人間としての俺を尊重してくれた。だから俺も百子を一人の人間として尊重したい。百子が嬉しい時は一緒に笑って、悲しい時はそれを分かち合いたい。二人で幸せな未来を築いて行きたいんだ」

陽翔の真っ直ぐな告白に、裕子はゆるく息を吐いた。

「……本当にしょうがない息子ね。私が持ってきた縁談には見向きもしなかったのに」

どこか悲しげな光が彼女の瞳に宿ったが、百子と目を合わせた時にはそれは幻のように消えてなくなっていた。

「百子さん、さっきは失礼な振る舞いをしてごめんなさい。貴女の事情も知らず、刺々しい物言いしかできずに申し訳なく思ってるわ。貴女の家を見下したような発言もしてごめんなさい……婚約破棄の件で私だけが焦っていたけど、それは貴女には関係のない話だったもの……八つ当たりしてごめんなさい」
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