茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「え、えっと……昔は、こんなの、なかった、よね?」

一連の陽翔の行動に動揺を隠しきれず、百子はしどろもどろになりながら目を彷徨わせる。

「多分な。まあ昔からあったとしても、まだガキだったし、これがあっても何のためにあるかが分かってなかったと思うが」

陽翔は彼女の腰を撫でながら、耳元で低く囁く。背筋がぞくりとした百子は、陽翔から離れようとしたものの、ガッチリと腰を掴まれて立てなくなっていた。百子は陽翔をキッと睨んだが、彼はふっと笑って、空いた手で彼女の頭をそっと撫でただけだ。

「ゆっくり見ようぜ。1時間くらい立ちっぱなしだったし、5分くらい座ってもバチは当たらんだろ」

陽翔は再び百子の頬に唇を落とし、ジンベイザメやエイなどの泳ぐ巨大な水槽を指差す。底の方でじっとしている小さなサメや、水槽の端に寄りかかるようにくっついているヒトデ、目をキョロキョロさせているようなフグを眺めているうちに、足が徐々に楽になっていったので、百子は感謝の言葉を陽翔に述べる。

(気を遣ってくれたのね)

陽翔に口付けを落とされ、腰を引き寄せられて、勝手にドキドキとしていた自分がいて、先程とは違う意味で顔を赤らめた。陽翔にバレやしないかと気が気でなかったが、降り注ぐ青がやんわりと隠していることをひたすら祈っていると、幼稚園児くらいの女の子が、こちらを好奇心丸出しで見つめてきた。水槽と二人がけの椅子の間は距離が空いており、時折人が目の前を通っていたが、まさかまじまじとこちらを見られているとは思いもせず、百子は慌てて席を立ち、他のエリアへの移動を促した。陽翔は徐に立ち上がり、自分達を熱心に見つめていた女の子に笑いかけ、体を傾けて百子の唇を塞ぐ。

「あ、ちゅーした! ラブラブー!」

女の子がきゃあきゃあと囃し立て、彼女は瞬時に親らしき大人二人の所に走り出す。大声をだすんじゃないと窘められている声が聞こえたと思えば、すいませんとこちらに向かって頭を下げたので、百子は慌てて首と両手を振った。元凶は隣にいる、済ました顔の陽翔であって、女の子にもその親にも落ち度は何一つ存在しない。

「もう! 陽翔! 教育上悪いじゃない!」

ひそひそ声で百子は不快感を顕にし、肘で陽翔を小突く。涼しい顔をしている陽翔はあっけらかんとしており、余計に百子の苛々は加速していた。

「そうか? 別に俺達悪いことしてないぞ。単に愛を語らってただけだし。百子も嬉しそうにしてたくせに」

「なっ……!」

陽翔は図星を突かれて口をわななかせている百子を一度抱きしめ、未だに固まっている彼女の手を引いて、次のエリアへと向かった。
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