神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「僕に居場所なんかないんだ。『HOME』で皇王の為の犬になるくらいしか…僕に価値なんてない」

「…!」

「『HOME』を追い出されたら、僕はまた行き場のない根無し草だ。アーリヤット皇国の…皇王だけが、僕を拾ってくれた」

…拾ってくれた、と言う割には。

居場所を見つけた喜びなど、ちっとも感じさせない辛そうな表情だった。

まるで、嫌いな野菜を無理矢理食べさせられたかのように。

「…取り立ててもらった恩義があるから、ナツキ様に従っているのですか?」

「…違うよ。『HOME』以外に、僕には行く場所なんてないから」

やはり、そうなのですね。

あなたの意志ではなく、ナツキ様に命じられて仕方なく…。

本当は気が進まないけど、それでも自分の居場所は『HOME』にしかないから、命令に従っている。

…マシュリさん御本人に、悪意はないのだ。

「皇王は僕に言った。『役に立て』と。この世の何処にも僕の居場所なんかないんだから、居場所を得る為には自分の存在価値を示さなければならないと」

「…そんな…」

「だから僕は役目を果たすんだ。こうして君を誘拐することで…。そうすれば聖魔騎士団は大きく弱体化する」

…その為に、私をここに連れてきたのですね。

分かりました。

「…マシュリさん。あなたは色々と勘違いしているようですね」

下手に挑発するようなことを言っては、自分の身を危うくする。

それは分かっているけれど、でも言わずにはいられなかった。

悲しい勘違いをして、自分の心を傷つけているこの人に。

せめて少しでも、救いを与えたいと思ったから。

「勘違い…。僕が?」

「えぇ、そうです」

色々とありますけど、まず…。

「私一人を誘拐したからって、聖魔騎士団は弱体化したりなんかしませんよ」

私が一人いなくなったから、どうなると言うのだ。

聖魔騎士団魔導部隊には、私よりも優秀な魔導師がたくさんいる。

彼らが、私の代わりに魔導部隊を率いてくれるはずだ。

「私の力など微々たるものです。私一人がいなくなったところで、聖魔騎士団魔導部隊は揺るぎません」

例え一時は混乱することがあっても、すぐにまた平和を取り戻すはずだ。

とても優秀な味方ばかりなのだから。

「だから、私を誘拐しても無駄ですよ」

本当に聖魔騎士団を弱体化させたいのなら、私の他にもたくさんの魔導部隊の大隊長達を誘拐することですね。

私の仲間達は、私のように間抜けに捕まってはくれないと思いますよ。

「…」

マシュリさんは黙って、私を見つめていた。

どうか、分かってください。

「…それからもう一つ。マシュリさん…あなた、本当は分かっているんじゃないんですか?」

「…何を?」

「いくら皇王様の命令に従って、自分の存在価値を示しても…本当にあなたの求める居場所を、手に入れることは出来ないのだと」

「…っ!」

マシュリさんは、明らかに動揺したようだった。

…やはり、そうなのですね。
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