神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…そんなことがあったのか?本当に?

「それは…初耳です」

「無理もありません。あくまで非公式に持ちかけられた話ですから。それに…結局この話は立ち消えになったのです。…恐らくは、私のせいで」

…また聞き捨てならないことを聞いたぞ。

「何故フユリ様のせいで…?」

「その条約というのが…。…くれぐれも、他言は無用でお願いしますね」

「勿論です」

国家間の非公式なやり取りなど、口が裂けても他言出来るものか。

こんな話を、俺まで便乗して聞くことが出来るのは、ひとえにシルナの威を借りているからである。

今更だけど、俺ここにいて良いのか?席外した方が良いのでは?

出ていけって言われたら困るし、大人しくしておこう。

「話を戻しますが…兄上が提案した条約は、一言で言えば、魔導師を弾圧し…その自由を奪う目的で考案されたものでした」

「…!魔導師を…」

「はい。兄上は…昔から、魔導師を毛嫌いされている方ですから」

…成程ね。

ナツキ様は、魔導師が好きじゃないのか。

と言うか、フユリ様が魔導師に好意的な態度だから、フユリ様のことが嫌いなナツキ様は、魔導師のことも嫌いになったんだろう。

坊主憎けりゃ袈裟まで、フユリ様憎けりゃ魔導師まで、って訳だな。

良いとばっちりだ。

「魔法の使える人間は全て当局に名乗り出て、国によって厳重に管理される。更に魔導師という職業をライセンス化して、ライセンスを持つ魔導師のみが魔法を使うことを許される。それ以外の人間が許可なく魔法を使ったら、厳しく罰せられる…。概ねはそのような内容でした」

うへぁ。

聞いてるだけでうんざりしてくる。

国による魔導師の一元管理って訳だ。自由がないにも程がある。

「更に…魔導師は強制的に国に奉仕する義務を課し、有事の際や、国王が命じたときに無償で労働力を提供する、とも…」

「そんな…。それじゃあ奴隷だよ」

魔導師は全員、国と国王の為に無償で働く義務がある、だって?

シルナの言う通り、それじゃあ魔導師は国家の奴隷に等しい。

俺、アーリヤット皇国にいなくて良かった。

危うく、ナツキ様の為に奴隷のように働かされているところだった。
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