神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…フユリ様との謁見が終わり、イーニシュフェルト魔導学院に帰る途中。

「何だかもう…ガーンっ!って感じだよね」

…語彙力が貧弱なシルナである。

だが、言いたいことは分かる。

俺も同じ思いだから。

「条約の話は衝撃だったな…」

「うん…」

ルディシアからはそんな話、一言も出てこなかった。

多分、ルディシア自身も知らなかったのだろう。

知らなかったのか…興味がなくて聞いていなかったのか。

どちらでも良いが、本当にそんな条約が可決されなくて良かった。

フユリ様は諸外国の中でも、特に魔導師に寛容な女王であると知られている。

そのせいで、ただでさえ魔導師に否定的な国々からは、目の敵にされているのだ。

最近じゃあ、ジャマ王国とも険悪な仲になってるしな…。

…まぁ、半分くらいは俺達のせいなんだけど。

何回やり直したって、他に方法はなかったと断言出来るが。

しかしそのせいで、フユリ様に迷惑をかけてしまうのは…俺達としても望むところではない。

「とにかく、ナツキ様が次に何をしてくるにせよ…生徒にとばっちりが行かないように、気をつけていないとな」

「うん、そうだね…。生徒達のことは、私達が守らなきゃ」

シルナも、力強く頷いた。

よし、それで良い。

イーニシュフェルト魔導学院の警備を、より一層強化しておくべきだな。

シルナの分身を増や…しても、あんまり意味がないかもしれないが。

出来ればルディシアにも協力してもらって、夜間の警備を特に、

「…よし、じゃあ早速」

「あ?」

「帰りに、美味しいガトーショコラを買って帰ろう!」

「…」

満面笑みで振り向くシルナ。

…なぁ。

こいつ、本当に危機感ってものを持ってるのか?

「ガトーショコラなんか、今はどうでも良いだろ…!?」

「『なんか』って何?ガトーショコラ『なんか』って!ガトーショコラは大切だよ!美味しいし」

知るかよ。

「それに、警戒が必要なときだからこそ、私達は出来るだけ普段通りでいなくちゃ」

また屁理屈こね始めたぞ。

イレースを連れてこい。鉄拳制裁で黙らせよう。

「生徒に余計な心配をさせない為に…そう、リラックスする為にね!ガトーショコラは必要だよ。これは必要な買い物なんだよ。ね?」

ね?じゃねぇよ。

何故それで俺が納得すると思ったのか。

「すぐ買ってくるから。ささっと買ってくるから。ちょっと待っててね!」

「…この馬鹿…」

シルナは帰り道にある行きつけのケーキ屋に、満面笑みでガトーショコラを買いに行った。

帰ってイレースに怒られても、俺は知らないからな。
< 76 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop