神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…しかし。




イーニシュフェルト魔導学院に帰ってきてみると、ガトーショコラで怒られる〜云々の騒ぎではなかった。




「学院長先生…」

「えっ、ど、ど、どうしたの!?」

シルナはそれを見て、買ってきたばかりのガトーショコラの袋を、床に取り落とさんばかりに狼狽していた。

学院長室には、涙ぐんだ女子生徒か二人、シルナを訪ねてきていた。

「大丈夫だよ。大丈夫、必ず見つかるから。そんなに泣かないで。ね?」

「うっ、うっ…天音先生…」

必死に天音が慰めていたが、二人共泣き止む様子はない。

これは一体何事…?

「どうしたんだ、二人共…。ナジュに泣かされたのか…?」

もしそうだとしたら、いよいよあいつはクビだぞ、クビ。

しかし。

「濡れ衣ですよ。何で僕が悪いことになってるんですか」

と、ナジュは口を尖らせた。

お前じゃなかったのか。

「じゃあ、何があった…?二人共何で泣いてるんだ?」

「元気出して、泣かないで!ガトーショコラあげるから、ほら!」

シルナはちょっと黙ってろ。

ガトーショコラで泣き止ませようとするな。それで泣き止むのはお前くらいだ。

「いろりが…いろりちゃんが…」

…いろり?

って、猫の?

「…いろりがどうしたんだ…?」

「…いなくなっちゃったんです」

「…!?」

いなくなった?いろりが?

何でそんなことに…?

「私達、今日いろりの餌やり当番だったんですけど…」

「お昼に餌を持っていっても、いつもの場所にいなくて」

それはおかしい。

あの賢い猫は、いつも餌の時間になったら自ら餌やり場の中庭にやって来るはず。

「おかしいなって思って、とりあえず、その場に餌入れを置いておいたんです」

「でも、全く手がつけられてなくて…」

「さっきも、夕ご飯の時間だから、餌を持って中庭に行ったんですけど…」

「…やっぱりいないのか?」

「…」

無言でこくり、と頷く女子生徒二人。

…そりゃ大変だ。

「猫は気まぐれな生き物なんですから、一日二日姿が見えないからといって、大袈裟に騒ぐ必要はないと言ってるんですが」

イレースはそう言うが…。

でも、いつもいるはずのいろりがいなかったら、そりゃ心配するだろ。

それに…。

「猫って、自分の死期を悟ったら、飼い主のところからいなくなるって言うじゃないですか」

「…確かに、そう言われてるな…」

女子生徒達がこんなに泣きべそをかいているのは、これが理由なのだろう。

自分の死期を悟ると、飼い主の前から姿を消し、一人で…。…という、猫の習性を思い出す。

心配にもなるよ。

折角、学院のマスコットとして、皆に受け入れられたばかりだったのに…。
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