三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
彼の住まいは彼の勤め先である新橋からほど近いところにあった。
こんなところ、家賃も高いのでは、と沙耶はまたどきどきしていた。
マンションの一室に案内されて、お邪魔します、と中に入る。
アロマだろうか、玄関はほんのりいい匂いも漂っていた。
「一人暮らし用の1LDKだから広くはないんだけど」
「うちより広いよ」
短い廊下を入って扉を開けると、LDKがあった。
16畳くらいありそうな広くてきれいな部屋だった。
部屋自体のきれいさもそうだが、掃除が行き届いていて整然と家具が配置されている。余計なものが置かれていない。猫の爪とぎがちらほらとあった。
スフィンクスはソファで丸くなっていた。
眠そうな目を2人に向けたあと、驚いたようにさっと奥のケージの中に入り込んだ。
「知らない人が来たから怖かったかな」
沙耶はケージをガン見したい衝動と戦いながら彼に言う。
「きっとすぐ慣れるよ。俺にもすぐに慣れたから」
ちらりと見ると、猫は警戒してこちらを見ている。
「アレルギーは大丈夫そう?」
「今のところは」
鼻水も出ないし、肌もかゆくならない。
「おやつあげてみる?」
「うん」
彼に猫用おやつを渡され、細長いビニール袋の口を破る。そろそろと猫の口に近付けると、猫は警戒しながらもぺろぺろと食べた。
おやつをあげながら少し触ってみると、猫は抵抗しなかった。
まったくの無毛ではなかった。スエードのような手触りで、なめらかだった。体のしわがはっきり見えるのが面白い。大きな耳の間の狭い頭皮もしわだらけだ。首から肩にかけてのところとお腹にあたりに特にしわがあった。この猫はシャムのように耳と鼻のまわりが黒っぽくなっていた。くりくりした水色の目がまたかわいい。ひげは個体によってはまったく生えていないというが、この猫はごく短いものが生えていた。
「名前は?」
「クレオパトラ。安直だけど」
「いいじゃない。女の子なの?」
「そう」