三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
「でもそのうちクレオちゃんとかクーちゃんとか略し始めちゃうのよね」
「わかってるね。もうクーになってるよ」
 尚仁は苦笑した。

「いつから飼ってるの?」
「1カ月くらい前かな。3歳だって。急な家族の介護で飼えなくなったのを譲ってもらったんだ」
「そうなんだ……」
 そういう事情なら手放すほうもつらかっただろう。猫は3日で恩を忘れるという俗説があるが、猫にとっても環境の変化はつらい。それなら忘れてしまった方がいいかもしれないし、彼なら今後を幸せにしてくれるだろう。

 一緒に暮らせるなんてうらやましい。
 そう思う自分に、沙耶は慌てた。
「どうかした?」
 尚仁が不思議そうに聞いてくる。
「なんでもない。写真とってもいい?」
 沙耶が聞くと、もちろん、と彼は目を和ませた。

 数枚を撮り、スマホをしまう。
「写真とらせてくれてありがとね」
 クレオパトラを撫でると、彼女は興味をひかれたように沙耶を見た。
 それがうれしくて、もっと撫でる。
 彼女は気持ちよさそうに目を細めた。

「クーもいいけど、俺もかまってくれない?」
 からかうように言われて、沙耶ははっとする。
 きがつくと尚仁はコーヒーを淹れてくれていた。コートはとうに脱いでいた。

「ごめんなさい」
「コート、あずかるよ」
「ありがとう」
 脱いで渡すと、コートスタンドの彼のコートの横に吊るされた。
 それだけでなんだかどきどきしてしまう。
 私ってなんて単純なんだろう。
 沙耶はこっそり深呼吸して自分を落ち着かせた。

 ソファに誘導されて座ると、彼は隣に座った。
 距離が近くて、また気持ちがそわそわした。少し手を伸ばせば届く距離。彼は平気そうなのに、自分だけが意識しているようで恥ずかしい。
 出されたコーヒーにミルクを入れ、無心でかきまぜた。
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