三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
「この丸い窓からクーが覗いてるの、見たくない?」
「それは……見たい」
 彼は沙耶からタブレットを受け取り、すすっと指を動かして、注文をタップする。

「猫タワーもほしいんだけど、これも種類が多くて」
 言われて、沙耶はタブレットを覗き込んだ。
 気が付くと尚仁と触れ合うほどの距離になっていた。彼の腕が沙耶のうしろのソファの背にかかり、まるで肩を抱かれているかのように錯覚してしまう。
 近い!
 どきっとして一瞬、体を離してしまう。

「どうした?」
「な、なんでも」
 慌ててタブレットに目を戻す。
 意識しているのは自分だけのようだった。
 そうだよね、猫のことを相談したいってだけなんだから。
 なんで尚くんは平気なんだろう。
 恨みがましい気持ちすら湧いてくる。

「これとか、よくない?」
 ぐい、と尚仁が体を乗り出す。香水だろうか、甘さを含んださわやかな香りがした。
 体が少し触れてしまい、なおさら緊張した。
 尚仁は子供のころのまま友達の距離感なのだ、と沙耶は自分を戒める。
 が、伝わる尚仁の体温が気になって、全神経がそこに集中してしまう。
 一生懸命、意識をタブレットの猫タワーに向けた。

「ここ、天井が高いからつっぱりタイプより置き型のほうがいいんじゃないかな」
「置き型って倒れない?」
「普通は倒れないようになってるけど、絶対じゃないかな。倒れてふすまが破れたって愚痴ってるお客様がいたから」
「それは嫌だなあ」

「壁にキャットステップつけるのは?」
「それなに?」
 タブレットで検索して見せる。壁に直接とりつける猫のための階段のようなものだ。

「へえ……あ、これいい」
 尚仁が目をつけたのは月の形をしたキャットステップだった。猫が座ってくつろげるほどの大きさがあった。
「かわいいよね、それ」
「キャットタワーは別に買うとして、とりあえずこれも買う」
 迷わずタップする。
< 16 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop