三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
 一口すくって口に入れる。辛みはほとんどなく、それでも香辛料の風味を感じた。
「おいしい」
「良かった」
 彼は微笑んで一口を食べ、
「しまった」
 と呟いた。

「どうしたの?」
 なにか失敗があったのだろうか。カレーはおいしくて失敗には思えないのに。
 尚仁は真剣な顔で沙耶を見つめる。

「昨日のうちに作っておけばよかった。一晩寝かせたほうがうまいよね?」
「そんなこと」
 つい笑ってしまったが、尚仁は真剣な顔でさらに言う。
「カレーにおいては重要なことだよ、これは失敗だ」
「大げさな」

「というわけで、明日も食べに来ない?」
「なに言ってるの」
 沙耶はまた笑った。
「ダメか」
 クスクスと尚仁も笑った。

「でも、ペットシッターは本当にお願いしたい。最近忙しくて帰りも遅いし、君なら信頼できる。ちゃんとバイト代も払うよ」
「……そういうの、恋人に頼んだら?」
「いないよ。いたら君を部屋に呼んでない」
「そっか」
 ほっとしてしまった。が、彼ならいくらでも女性が寄ってきそうなのに、とも思った。

 どういう女性なら彼のお眼鏡にかなうのだろう。
 やはりきれいな人だろうか。自分みたいに田舎臭い人ではなく、スタイリッシュな人だろう。
 彼はずっと東京にいるのだ。きれいな人なんてたくさん見てきているし、近くにもいるだろう。口説くような言葉を何気なく口にするのも、そういう人たちとの軽口として慣れ親しんでいるだけに違いない。

「なんなら住み込みで。そうだ、そうしよう。俺の専属になって」
「何言ってるの」
 沙耶の気など知らない彼の言葉に、あっけにとられた。一緒に暮らすなんて、冗談でも照れてしまう。
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