三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
 尚仁は笑いながら、ダメかあ、と残念そうにつぶやいた。
「からかうにしたって、許容範囲があるわよ。昔の尚くんならこんなこと言わなかったのに」
「俺も大人になったってことかな」
 彼はくすくすと笑う。

「ペットシッターだけでも、ダメかな?」
「それなら……むしろやりたい。でもバイト代なんて、申し訳なくて」
「ダメだよ。君の時間をもらうんだから、それは払わさせて」
「わかった」

 ペットにはもう関われないと思っていた。それが思いがけず接することができて、なおかつそれが尚くんのところだなんて。
 沙耶の心ははずんでいた。



 食後に尚仁はリンゴをむいてくれると言った。
 洗い物は食洗器があるからとやらせてもらえなかったし、完全にお客様だと逆におちつかないな、と沙耶はそわそわした。

 テーブルに置かれた尚仁のスマホが鳴った。
 思わず見た画面には女性の名前が表示されて、どきっとした。
「スマホ、誰から?」
 りんごをむいている尚仁がたずねる。

「やうち? やない? 真里奈さん」
「やないさんね。放っておいていいよ」
 スマホはやがて着信の通知を残して沈黙した。

「仕事で知り合った人なんだけど、どうでもいいことですぐ連絡してくるんだ」
「大丈夫なの?」
「仕事と関係のないことばかりだから」
 沙耶は首をかしげた。それでも連絡先を交換しているというのは、どういう状況なのだろうか。

 たとえば、気になる異性とか。
 沙耶の心臓がずきん、と痛んだ。
 好意を持っているのなら、こんなときに放置もしないだろう。だからきっと違う。
 いや、むしろ、だからこそほかの女が部屋にいるときには出なかったのだろうか。

「……向こうは別会社の社長なんだけどさ」
「え!? 出た方が良かったんじゃないの?」
「アヤノ食品の息子だって知って、それでつなぎをつけてほしいだけだと思うよ」
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