三日月が浮かぶ部屋で猫は ~新米ペットシッターは再会した初恋の彼の生涯専属を求められる~
 思い出して、沙耶は笑った。先生の怒った顔、教室で再生された映像の、知らん顔して飛んでいくカラス。あっけにとられる先生に、げらげら笑うクラスメイト。

「君もちょっと似たところあるけどね。あのときは勇敢だったな」
 尚仁が笑い、りんごをかじった。
 きっと図書室に突撃したときの話だ、と沙耶は悟った。

「なんだか恥ずかしい」
「俺はうれしかったよ」
「最初は怒ってたじゃん」
「本当はうれしかった。その前からずっと俺のために怒ってくれてたよね。知ってたよ」
 彼はそう言って照れ臭そうに笑った。

「私も……助けてもらえてうれしかった」
 沙耶まで照れ臭くなって、リンゴをほおばった。
 クレオパトラはケージの中からそんな二人を黙って見つめていた。



 リンゴを食べ終えてからも話は尽きなかった。
 会えなかった時間を埋めるかのように、2人はお互いの話をしていた。
 時計が9時になるのを見て、沙耶はあきらめて切り出した。

「もう帰らないと」
「車で送るよ」
「大丈夫だよ」
「女性の1人歩きは危ないから」
「……わかった、じゃあお願い」
 尚仁が引きそうにないので、任せることにした。
 もう少し一緒にいられる。内心はうれしくてたまらなかった。

「じゃあね、クレオパトラちゃん」
 そう言って振り返ったときだった。

 いつの間にか棚の上にのっていたクレオパトラがバランスを崩して落ちそうになった。
「あぶない!」
 とっさに沙耶は飛び出そうとして、スリッパが滑って転んだ。
 クレオパトラは自力で体勢を立て直してジャンプして降りた。

「大丈夫?」
 尚仁は驚いて沙耶に手を差し出した。
「恥ずかしい」
 照れ笑いをしながら沙耶は体の向きを変え、尚仁の手を取ろうとした。
 クレオパトラはさっとテーブルに飛び乗る。と、尚仁の背に飛び移った。
< 23 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop