追放された調香師の私、ワケあって冷徹な次期魔導士団長のもとで毎日楽しく美味しく働いています。

123.合流

 フレイヤは連絡の魔法を使い、魔法で作った緑色の鳥をアレッシアのもとへと送った。
 自分が無事であること、シルヴェリオがそばにいること、そして、アレッシアたちに口裏を合わせてほしいと伝えるよう、魔法に込めている。
 
 ちょうど鳥が飛び立ったと同時に、屋敷のドアノッカーを叩く音が聞こえてきた。
 
「シルー! ルアルディ殿! いたら返事をしてくれ!」

 次いで、ネストレの声が聞こえてくる。
 二階にいてもハッキリと聞こえるほど大きな声で、それどころか、耳の奥でキンと音が鳴るほどだ。
 
 フレイヤは驚きに目を見開いた。
 華やかな美貌を持つ王子は、その麗しい(かんばせ)からは想像がつかないほど声が大きかった。

 呆然とするフレイヤの隣で、シルヴェリオが指先で眉間の皺を摘まむ。

 「相変わらず声が大きい……。もしも屋敷を間違って俺たちがいなかったら、どうするおつもりだったのか……」
 
 シルヴェリオはげんなりとした顔で呟くと、魔法の呪文を唱える。途端に、階下で扉が開く音が聞こえた。
 
「ネストレ殿下、我々は二階にいます。フレイさんは無事ですし、誘拐ではありませんでした」

 次いで、シルヴェリオは魔法の呪文を唱えた後、ネストレに向けた言葉を紡ぐ。
 離れた場所にいるネストレたちにも聞こえるよう、拡声魔法を使ったのだ。
 
 ややあって、ネストレとオルフェンとアーディルとラベク、それにリベラトーレが部屋の中に入ってきた。
 部屋の外、廊下にはネストレの部下である騎士たちが四名、待機している。
 
「ルアルディ殿、無事でよかった」

 アーディルはフレイヤににっこりと微笑みかける。しかし、オルフェンが部屋の中に入るや否やフレイヤに抱きついてきたせいで、フレイヤはアーディルの笑顔を見る余裕もなく、オルフェンを受けとめることしかできなかった。

「フレイヤ! 怪我はない?」
「うん、かすり傷一つないよ」
「……ごめん。僕がちゃんとついていれば、フレイヤはこんな目に遭わなかったのに……」

 オルフェンの声はいつになく元気がない。それほど自分を心配してくれたのだとわかり、申し訳なく思ったフレイヤは、オルフェンを慰めるように彼の背に腕を回して撫でた。

「ううん、オルフェンはなにも悪くないよ。だって、私は危険な目に遭っていないし、あの時は私も護衛が無くても大丈夫だと思っていたから」
 
 本当は誘拐されたのだが、その事をオルフェンが知ると気に病みそうだから、このまま隠し通そうと心に誓う。
 そうしてフレイヤがオルフェンの背を撫でていると、シルヴェリオが大股で二人に歩み寄り、オルフェンをフレイヤからベリッと剥がしてきた。

「泣きながらフレイさんに抱きつくな。フレイさんの服が汚れる」
 
 そう言い、ジャケットのポケットから取り出したハンカチで、涙でぐちゃぐちゃになったオルフェンの顔を拭いた。
 急にフレイヤから引き剥がされたオルフェンは不満そうにシルヴェリオを睨んだが、大人しく顔を拭かれるのだった。
 
 三人の前にネストレが現れ、フレイヤとシルヴェリオを見て微笑んだ。
 
「シルもルアルディ殿も、無事でよかった」
「急な頼みにもかかわらず駆けつけてくださってありがとうございます」

 きっちりと礼をとるシルヴェリオに、ネストレは片手で制して顔を上げるように言う。

「他ならない、親友の頼みだからね。何があっても力になりたいものさ」
「……っ!」
 
 シルヴェリオは感極まったようで、口元を震わせたが、すぐにきゅっと唇を引き結んだ。
 
「お忙しい殿下のお手を煩わせてしまい、大変申し訳ございませんでした」
「謝罪なんて、止してくれ。それに、恩人のルアルディ殿のためならこれくらい、どうってことない」 

 ネストレはフレイヤに片目を瞑って見せると、振り返り、ラグナたちに視線を向ける。
 
「久しいですね、ラグナ殿にアイリック殿。まさか、このような隠れた屋敷で再会することになるとは、思ってもみませんでした」
「内密にエイレーネ王国に来たうえに騒ぎを起こしてしまい、申し訳ございません」
 
 ラグナは深く頭を下げて謝罪を示す。
 
 ネストレが何か言おうとしたところで、シルヴェリオがすぐに口を開いた。
 
「ネストレ殿下、話しを遮る無礼をお許しください。実はオルメキア王国の第一王子殿下と第一王子殿下は、オルメキア王国の宰相の脅威から身を守るために密かにエイレーネ王国に来られました。今に至るまでの経緯を聞いていただけますか?」
「わかった。シルがそう言うのであれば、聞こう」
「ありがとうございます」
 
 シルヴェリオはネストレに礼を言うと、ネストレや彼の部下たちに、予めフレイヤたちと打合せしていた内容を聞かせた。




***あとがき***
いつも応援いただきありがとうございます。
物語を楽しく読んでいただきたいと思い、ここに書くべきか迷いましたが、度々更新が間に合わなくなっていますため、状況をお伝えできたらと思います。

昨年から体調を崩しており、最近服用し始めた薬の副作用で長く起きていられず執筆できる時間が限られているため、週一の更新を目指しておりますが、どうしても間に合わずお休みする週もあるかもしれません…。
(病気にかかっているような表現になってしまったのですが、会社の深夜残業が続いた疲労が原因ですのでご安心ください…!)
いつも応援いただいているのにお応えできず誠に申し訳ございません。
早く回復して完結までたくさん更新できるよう、今年中には状況を改善できるよう進めていますので、もしよろしければ引き続き更新をお待ちいただけますと嬉しいです。

残暑が続いていますので、お体にお気をつけてお過ごしください!
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