クズ男に囚われたら。
「じゃ、この調子で頼むね、ナナちゃん」
ニコリと笑ってわたしの頭をポンポンと撫でるいっくん。
その完璧さと優しさから、一部の女子の間では『王子様』とも呼ばれていることもわたしは知っていた。
瀬能とは正反対だ、なんて心の隅で思う。
唯一の共通点といえば、女の子からの人気、ってとこだろうか。
……いや、それもなんか系統が違う気がする。
いっくんを好きになる女の子は、例え片想いになったとしても"良い恋愛"にはなりそうだな、なんて思ってみたり。
そりゃ、片想いで良いも悪いもないかもしれないけれど、瀬能に片想いすることと比べたら雲泥の差だ。
いっくんの爪の垢でも煎じて飲ませたら、瀬能も多少はまともな男になるんだろうか。
「……や、無理だな」
「ん?なにか言った?」
「ううん。なんでもない」
思わず出た自問自答をいっくんに聞かれてしまって、笑って誤魔化した。