クズ男に囚われたら。


いってらっしゃい、と栞に見送られ、わたしは慣れたようにいつもの旧音楽室へと向かった。



────ガチャ。

「……あれ」


が、そこにいつもいるはずの瀬能の姿はなかった。


まだ来てない……?


いや、必要最低限の授業しか出席しないような男が、放課後のこの時間まで教室にいることは考えられない。


ということは、他の女の子と遊んでいるんだろうか。



「……何それ。ムカつく」

1人で勝手に想像おいて、思わずその言葉がついて出た。

わたしが昨日来なかったことには怒っておいて、次は自分は来ないんだ。へーぇ。


おおかた、わたしへの仕返しのつもりなんだろうけど。要するに、まんまと振り回されたわけだ。


瀬能のことだから、今日は来ないつもりなんだろうな。



ふと、彼がいつも弾いている黒く光ったグランドピアノに目を止めた。

< 35 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop