クズ男に囚われたら。
いってらっしゃい、と栞に見送られ、わたしは慣れたようにいつもの旧音楽室へと向かった。
────ガチャ。
「……あれ」
が、そこにいつもいるはずの瀬能の姿はなかった。
まだ来てない……?
いや、必要最低限の授業しか出席しないような男が、放課後のこの時間まで教室にいることは考えられない。
ということは、他の女の子と遊んでいるんだろうか。
「……何それ。ムカつく」
1人で勝手に想像おいて、思わずその言葉がついて出た。
わたしが昨日来なかったことには怒っておいて、次は自分は来ないんだ。へーぇ。
おおかた、わたしへの仕返しのつもりなんだろうけど。要するに、まんまと振り回されたわけだ。
瀬能のことだから、今日は来ないつもりなんだろうな。
ふと、彼がいつも弾いている黒く光ったグランドピアノに目を止めた。