腹黒御曹司の一途な求婚
 手が当たって、それで誘惑?
 確かにそういうハプニングは少女マンガとかでありがちだけど、そんな胸キュンな空気が漂っていたとは思えない。だって小芝ちゃんの顔には困惑がありありと浮かんでいる。本当に偶然だったんだろう。
 
 それで怒り狂うなんて……嫉妬深すぎじゃない……?
 
 全くもって予想外の内容に呆気に取られていたけれども、私はハッと我に返った。労いの意味を込めて小芝ちゃんの肩をポンと叩く。
 
「あとは任せて。他のお客様へ騒ぎのお詫びとしてドリンクをサービスしたいから、ホールの皆に伝えてもらっていい?小芝ちゃんはちょっとコーヒーでも飲んできて?落ち着いたら、またホールに戻ってもらってもいいかな?」
「……すみません、美濃さん。お手数をおかけして……」
「気にしない気にしない。小芝ちゃんのせいじゃないって」

 何度も頭を下げる小芝ちゃんに明るく笑いかける。
 事実彼女のせいでもなんでもなかった。これは対策のしようもない。
 
 波乱の予感を胸に抱きつつ、私は緊張の面持ちで渦中の個室のドアの前に立った。中からは女性のヒステリックな喚声が漏れ聞こえてくる。
 早めに収拾つくといいなぁ、なんて諦め気味に願いながら、意を決してそのドアをノックして、中に足を踏み入れた。
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