腹黒御曹司の一途な求婚
 足元がおぼつかない久高くんの背に腕を回して、倒れないように支えながらエレベーターへ乗り込む。
 幸い久高くんにもまだ歩く力は残っていたようで、もたれかかってはこなかったから助かった。長身の成人男性を運ぶ腕力はさすがにないので……。

 エントランスの車止めにはちょうどタクシーが停まっていて、久高くんを座席に押し込んで私も隣の座席に座った。
 夢の世界に片足を突っ込んでいる彼は、おそらく一人では帰れないだろうから。

 座席にもたれる久高くんを揺さぶり起こして聞き出した彼の自宅は、このビルからすぐ近くのタワーマンションだった。
 「ベリが丘三丁目」ではないものの、セレブが多く住むと評判の高級タワマンで、上の方の階はすべて億越えらしい、と聞いたことがある。
 さすが御曹司……と感心していると、あっという間にタクシーがマンションのエントランスに停車した。
 
 財布を出そうとしたところで久高くんにギュッと手首を強く掴まれてしまって、私はまたも奢ってもらう羽目になってしまった。いや、でもここは久高くんの家だから、それは気にしなくていいのかも……?
 
 そのまま強い力で手を引っ張られ、久高くんに続いて私もタクシーを降りる。
 結構な力だったので酔いが冷めたのかなと思ったけれど、エントランスへ向かう久高くんの足取りはまだ少しヨロヨロしていて、顔もウトウトしている。
 
 このまま久高くんを一人で帰したら、家まで辿り着けずに力尽きてオートロックの手前で倒れ込んでしまうかも。
 翌朝、警備員さんに保護されている久高くんの姿が頭をサッとよぎる。……ここでさよならするわけにはいかない。
 
 どうせ乗りかかった船だ。ちゃんと部屋まで送り届けてあげようと、私は久高くんを支える腕に力を入れ直した。
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