仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
そう言って微笑んだ壱護に対し、杏葉はすぐに反応できなかった。ポカンと半分くらい口を開けてしまった。
この場に柑奈がいたら、アズハが間抜けな顔を晒すなと叱咤していたに違いない。
「そのTシャツ、買うなら早く買ってこい」
「あ、うん」
杏葉は促されるまま、レジに持って行きTシャツを二着購入した。
店員が袋に詰めているところをぼうっと眺めていた。
「(いい女って言った!?)」
かなり時間差でブワッと顔が熱くなる。
「(えっさっきのは何!?)」
そして今更ながらに思い出す、壱護のことを誘惑しようとしていたことを。
綺麗さっぱり忘れ去り、ただハワイ旅行を楽しむだけになってしまっていたが。
「買えたか?」
「あっ、かっ買えた!!」
思わず声が上擦ってしまう杏葉。壱護は杏葉の持っている袋をひょいと持ち上げた。
「持つよ」
「えっ!?別にいいよ!」
「いいよ。妻に荷物を持たせる旦那だと思われたくもないしな」
「……!」
その時、ドキッとしたがすぐに寂しい気持ちになった。
おしどり夫婦の解像度を上げるための行動だと思うと、何だか寂しいと思ってしまう。
「(いやなんで?仮面夫婦なんだから寂しく思うことなんてないのに)」
だけど、先程の言葉は嬉しかった。
ありのままの杏葉のことを見て、褒めてくれたような気がしたから。
本当の自分自身を曝け出すことが苦手な杏葉にとって、受け入れてもらえたような気がした。