仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
そう言って梨本は目の前にある真っ白なボディの車に案内しようとする。
梨本らしいおしゃれで上品なデザインの車だった。
「お気持ちは嬉しいですが、流石に申し訳ないです」
杏葉はニコッと微笑む。
壱護の言葉に従うわけではないが、二人きりになるのは避けたいと思った。
「(流石に別の男性の車で送ってもらうのは……側から見たら完全アウトだし)」
杏葉は丁寧にお辞儀をし、その場から立ち去ろうとした。
「お気遣いいただきありがとうございます。でも大丈夫ですので、これで失礼させていただきますね」
しかし、グイッと腕を掴まれてしまう。
梨本は穏やかな笑みを貼り付けたまま言った。
「遠慮しないでください。アズハさんがお一人で出歩かれると目立つでしょうし、送りますよ」
「いえ……そこまでしていただくわけには」
やんわり腕を振り解こうとしたが、梨本は妙な力で杏葉を離そうとしない。
「本当に大丈夫ですから……」
「人妻だからですか?少しくらいは良いでしょう?――どうせ結婚前は散々遊ばれていたんじゃないですか?」
「……っ!」
思わずゾッとした。梨本は変わらずにこやかに微笑んでいる。
なのに言葉には棘がある。悪意がある。
怖くなって無理矢理腕を振り解こうとした。
「っ、離してください!」
「大丈夫ですよ、あいつには秘密にしますから。これでも僕、口は堅いんです」