仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
何を言っているのだろうと思った。まるで話が通じない。
掴まれた腕にグッと力が込められる。
「(これが梨本さんの本性?壱護が気をつけろと言っていたのはこういうことなの……?)」
杏葉は何故こんなことになったのかわからず、恐怖で固まってしまう。
逃げなければと思うのに、足がすくんで動かない。
「……意外と初心なんですか?いや、そう見せかけているだけなのかな」
「……っ」
「男を翻弄するのがお上手ですね」
その言葉は、以前にも言われたことがある。
ただ普通に接していただけなのに、色目を使っていると勘違いされて。
何とか逃げたけど、ホテルに連れ込まれそうになったこともある。
モデルデビューをする前からそうだった、軽い女だと誤解されてばかりいた。
「っ、壱護……っ!」
――助けて、助けて、助けて……!!
来てくれるわけないのに、心の中で叫んでしまう。
大声すら出せない自分が情けないと思った。
「壱護、助けて……っ!!」
泣きながらか細い声をあげるのがやっとだった。
――ドッ。
杏葉の目の前で鈍い音がしたと思ったら、掴まれていた腕が解かれて尻餅をついて倒れる梨本がいた。
右頬には思い切り殴られた痕が残っている。
「壱護……!!」
「卓、いい加減にしろよ……」
梨本を殴り飛ばしたのは壱護だった。
拳を握りしめ、見たこともない怒りを滲ませた表情で梨本を見下ろしている。