仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
一瞬で覚醒して飛び起きた。
夢ではない、目の前には本当に壱護がいる。そして彼に思いきり抱きついていた。
「ななな、なんで!?」
「今日は落ち着いてるみたいだし、もう一人の先生に頼んで帰らせてもらった。緊急事態になればすぐに行くけどな」
「だから、なんで……」
「杏葉が心配だったからだろ」
壱護は杏葉の頭に優しく手を乗せる。
「大丈夫か?」
「っ、ありがとう……」
帰って来てくれたことが嬉しくて、またじわっと涙が滲む。
目が潤み始めた杏葉を見て壱護は慌てる。
「やっぱり大丈夫じゃないだろ」
「違う、これは嬉し涙だから……忙しいのに、帰って来てくれてありがとう」
目をこする杏葉のことを壱護は包み込むように抱きしめた。夢で見たのと同じように。
「ごめんな、怖い思いさせて」
「ううん……」
「変に心配かけたくなくて言わなかったけど、卓は今でも俺を恨んでるんだ」
「どうして?」
「俺がフィギュアを辞めたから」
壱護は杏葉を抱きしめたまま、ぽつりぽつりと昔のことを話し始めた。
壱護と梨本は同い年でありライバルだった。
地元の大会から始まり、都の大会からそれ以上の大きな大会に至るまで表彰台を争い、切磋琢磨していた仲だった。
「俺はあいつの繊細な表現力やスケーティング技術を尊敬していた。素直にすごいやつだと思ってて、負けたくないと思ってたんだ」