仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜


 一瞬で覚醒して飛び起きた。
 夢ではない、目の前には本当に壱護がいる。そして彼に思いきり抱きついていた。


「ななな、なんで!?」

「今日は落ち着いてるみたいだし、もう一人の先生に頼んで帰らせてもらった。緊急事態になればすぐに行くけどな」

「だから、なんで……」

「杏葉が心配だったからだろ」


 壱護は杏葉の頭に優しく手を乗せる。


「大丈夫か?」

「っ、ありがとう……」


 帰って来てくれたことが嬉しくて、またじわっと涙が滲む。
 目が潤み始めた杏葉を見て壱護は慌てる。


「やっぱり大丈夫じゃないだろ」

「違う、これは嬉し涙だから……忙しいのに、帰って来てくれてありがとう」


 目をこする杏葉のことを壱護は包み込むように抱きしめた。夢で見たのと同じように。


「ごめんな、怖い思いさせて」

「ううん……」

「変に心配かけたくなくて言わなかったけど、卓は今でも俺を恨んでるんだ」

「どうして?」

「俺がフィギュアを辞めたから」


 壱護は杏葉を抱きしめたまま、ぽつりぽつりと昔のことを話し始めた。

 壱護と梨本は同い年でありライバルだった。
 地元の大会から始まり、都の大会からそれ以上の大きな大会に至るまで表彰台を争い、切磋琢磨していた仲だった。


「俺はあいつの繊細な表現力やスケーティング技術を尊敬していた。素直にすごいやつだと思ってて、負けたくないと思ってたんだ」


< 85 / 93 >

この作品をシェア

pagetop