仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
だが、梨本はそうではなかった。
あまり感情的にならず、淡々と自分自身のスケートに向き合っている壱護の姿は、梨本には他の選手のことなどまるで気にしていないように映っていたらしい。
戦績は辛くも壱護が勝利することが多かったこともあり、梨本は自分のことなんか相手にしていない、自分だけが一方的にライバル視していると思い込んでいたようだ。
しかし当時の壱護は梨本の気持ちを知らなかった。
お互いに良いライバルであり、友人だと思っていたのだ。
「俺は元々スケートをやるのは高校の時までと言われ、将来は医者になって病院を継ぐように言われていた。本当はもっとスケートに打ち込んでオリンピックを目指したいと思っていたから、俺がもっと頑張って上を目指せば親に認めてもらえるかもしれない。そう思っていたんだ」
しかし、ある大会前の練習中、ジャンプの着地に失敗して怪我をしてしまった。
幸い手術をしてリハビリをすればまた滑れるようになると言われていたものの、そのシーズンは全て欠場。
来年は受験となることもあり、親からこれを機にスケートは辞めて医者になる勉強をしろと言われた。
「諦めたくなかったら食い下がった。医者にはなるからもう少しだけ続けさせて欲しいと。
でもはっきりと言われた、ここで神様が潮時だと言っている。夢を見るのはやめて堅実に生きろって」
壱護は力なく微笑む。
「普通はさ、子どもの夢を頑張ってみろって背中押してくれるもんじゃないか?俺もやるだけやってみろ、頑張れって言って欲しかった。でもダメだった」