仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
悲しそうな壱護の表情に、杏葉は胸が締め付けられる。
「失望して、そこから俺は何のために頑張るんだろうって思ってしまって結局そのままスケートを辞めてしまったんだ」
「そうだったの……」
「それが卓は許せなかったみたいだ」
引退を決意した壱護に向かって、梨本は激しい感情をぶつけた。
いつも温厚で優しい梨本の、ずっと押し込んでいた感情が爆発した。
「お前はそうやって逃げるのか!才能があって何もかも僕より勝っているくせに、たった一度の怪我で諦めて逃げるのかよ!僕はまだまともにお前に勝てていないのに――勝ち逃げなんて卑怯だぞ!!」
そんなつもりはなかった。
だけど梨本は軽蔑し切った表情で壱護を非難した。
「俺だって本当は諦めたくなかった。でも、自分の意志を貫けなかったのは事実だ。……逃げたって思われても仕方ないよな」
「そんなことない!」
杏葉は思わず声をあげていた。
「子どもが親に褒めてもらいたい、認めてもらいたいって思うことは自然なことだよ」
杏葉は壱護の手をぎゅっと握りしめる。
できることなら、当時の傷ついた壱護に寄り添って抱きしめてあげたかった。
「あんたはすごいよな」
「え?」
「柚葉さんが言ってた、スケートが好きになったのは杏葉がすごい、天才だって褒めてくれたのが嬉しかったからだって」
「柚葉ったらそんなこと言ってたの?」