初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「ただただそういうシーンのマンガもあるけどね。私はありだと思うけど、あんたは苦手でしょ」
「うん……」 
「真面目に考えすぎなのよ。マンガなんて気軽にカジュアルに楽しんだらいいのに」
「そう言われても」
「ドラマで刑事が銃を撃ったら現実的じゃないって指摘するタイプだよね」
「さすがにしないけど」
 やりそうなタイプだな、という自覚はある。

「電子書籍は場所をとらないし手軽でいいんだけど、やっぱり紙の本が好きなんだよね。こうして人に貸して勧めることもできるし」
 紙の書籍を好む順花の部屋には、エロ以外にもたくさんの本があるという。少しは片付けろ、そんなだから嫁にいけないんだ、と親にぶちぶち言われているらしい。

 この本は順花の厚意だ。だけどエロなんて。
 いや、と初美は思い直す。
 これは恋愛マンガだ。恋愛の先に必ずある、避けては通れない道を描いているのだ。
 自分は避けて通った結果、下手だと言われて捨てられた。少しは免疫をつけないと。

「ありがとう。がんばって勉強する」
「そんな気合入れるもんじゃないよ」
 順花は苦笑した。



 異動して初日は基本的な流れを説明されて、雑用を任された。
 金曜日に歓迎会をやりたいけどあいてる? と室長に聞かれて、あいてます、と答えた。
 蓬星の仕事の指示はわかりやすかった。
 午後は主に書類の整理をした。過去の企画書の整理だ。
 彼はときおり、なにか言いたそうにこちらを見ているが、結局はなにも言わなかった。
 ほっとして終業時刻を迎える。

「今日は初日だし、もう上がって」
「ありがとうございます」
 蓬星に言われ、礼を言った。
 引き出しから友達に借りたマンガの入った袋を取り出したとき。
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