初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「遠慮しないで。今度一緒に飲みに行って語り合おう!」
「嫌だよ」
 結局はマンガだからうまくいくのだ。作者がそのように考えて、ラストに導く。都合よく特技を活かせるピンチが訪れたり、都合よく勇気を出せるわけない。マンガの中の儚い夢だ。

 作品としては面白かったが、最後にダイヤをプレゼントされるところがしっくり来なかった。貴斗との思い出があるせいでダイヤに抵抗がある。

 なんで必ず高いダイヤなの。高いから価値があるっていうのも、おかしくない? 大切な人から渡されたものだから価値があるのだろうに。

 結局、拒否するのも申し訳なくて借りた。
 今度は見つからないようにしまっておこう。そう思ってロッカールームに向かう。
 やっぱり中が気になって、周りに人がいないのを確認して取り出してみる。
 ピンク色の背景に、潤んだ瞳の半裸の女性が描かれていた。彼女を抱きしめる男性も上半身が裸だった。かっこよくてセクシーで、どこか蓬星に似ていた。

 どきっとして、歩きながら表紙をガン見した。
 だから、正面から歩いてくる彼に気がつかなかった。
 どん! とぶつかって、本を取り落とす。
「す、すみません!」
 顔をあげると、そこには蓬星がいた。
「――!」

 蓬星は本をとりあげ、しげしげと表紙を眺める。
「こ、これは、その……」
「――婉曲に俺を誘ってるの?」
 蓬星がくすりと笑う。
「ち、ちがいます」
 思わずあとじさる。と、背に壁があたった。
 とん、と壁に手をついて、彼の顔が迫った。

「やぶさかじゃないけどね」
 彼がまたくすりと笑う。
 初美は顔をひきつらせた。
 人生初の壁ドンだ。
 彼と出会ってから、人生初がどんどんやってくる。

 人生初のエロマンガ。
 人生初の壁ドン。
 彼と初めて会った日には――。
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