初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 やばい、こんなことばっかり考えてる人だと思われちゃう。
「お先に失礼します」
 本を受け取り、初美は急いで部屋を出た。
 


 金曜日。
 憂鬱な気持ちで一日を過ごした。
 夜には歓迎会だ。
 全員で定時に仕事を終わらせ、居酒屋に向かう。
 歓迎される立場で、いわば主役だ。逃げることはできない。

 通りすがりに蓬星に「飲みすぎないでね」と言われてしまった。
 恥ずかしい。やはり彼はあのときの人で、あの夜を覚えているのだ。
 せめて居酒屋では距離をとろう。
 そう思っていたのに。

「今日は石室くんの歓迎会も兼ねているんだよ。二人が主役だからね」
 佐野はにこやかに言い、自分と彼を隣同士に並べた。
 勘弁して。
 初美はひきつった笑顔を浮かべた。

 初美は最初だけサワーを頼むことにした。
 飲み物が届いて、乾杯する。
 蓬星が一瞬、ちらっと初美を見たが、気にしないことにした。
 彼はビールを頼んでいる。
 乾杯をして、あたりさわりのない会話をする。
 佐野は早い段階で酔ったようだった。

「こうして並ぶと美男美女だな。二人とも恋人はいないんだろ。つきあっちゃえば」
 佐野が言う。
 初美はサワーを噴きそうになり、咳込んだ。
「今はそういうこと言うのはセクハラになるんですよ」
 蓬星が苦笑した。

「これくらいで? 参っちゃうなあ」
「先輩はもっと別の感じの人がタイプですよ。ねえ?」
「タイプは特にないかなあ。でも、優しい人がいい」
 初美が言うと、蓬星がくすりと笑った。
「へえ、そうなんだ」
 含みのある声音に、初美はどきどきして顔をそむけた。
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