御曹司は初心な彼女を腕の中に抱きとめたい
私たちはベンチに腰掛け、その後も食べながら最近会ったことなど話した。
昨日も会っていたのに話は尽きることがない。他愛のない話がこんなにできるなんて楽しくて仕方がなかった。
彼は仕事の話も教えてくれ、がんの研究の奥深さに驚かされた。私たちが何気なく口にしている薬がこんなに大変な思いをして作られてるなんて考えたこともなかったので素直に興味話湧いてきた。

「でもどうして研究者になろうと思ったんですか?」

「あー、うん。がんって死亡原因の上位にあるだろ? 大切な人がかかった時に研究を始めても遅いんだ。その時に使えないと意味がないだろ? だからそんな未来に向けての投資って思った。それにいつかは研究ができなくなるから今のうちに没頭したくて」

「いつかはできなくなるの?」

私の質問になぜか彼は口を閉ざした。そして寂しげに笑っていた。

「みちるちゃんは仕事楽しい?」

「楽しいかはわからないけど嫌いじゃないです。活躍はしていないけど、誰かの役に立つ仕事だと思ってるかな。ちょっと大袈裟だけど」

「でも誰かがやらないといけない仕事だろ。みんなが最前線で働いているわけじゃない。縁の下の力持ちって大事だよ」

そんなふうに言ってもらえるとただの事務職なのに少しだけ嬉しい。目立つ仕事じゃないのであって当たり前で認められることなんてあまりないのに。
奥山さんの言葉は本当に私の心にスッと染み込んでくるのが分かった。

「私、奥山さんの言葉が好きです」

「え?」

あ……。つい感じたことを口にしてしまった。でも話せば話すほど奥山さんと過ごすのが居心地が良くて仕方ない。

「えっと、奥山さんと話すのが楽しいってことで」

「いい傾向だな。もっと俺といたいって思ってもらえるよう頑張るよ」

またそんな言葉で私の心を騒がす彼は策士なのかもしれない。少し彼を上目遣いで睨むと、くくく、と笑いながら私の頬を突っついてきた。

「そんな顔も可愛いよ」

うわぁ。恋愛偏差値底辺の私はこんなことをされたらどう知ったらいいのかわからない。彼に顔を向けられず、俯いてしまうと頭を撫でられた。奥山さんの偏差値は高すぎない? と直感で感じざるを得なかった。
< 17 / 60 >

この作品をシェア

pagetop