御曹司は初心な彼女を腕の中に抱きとめたい
ふたりで電車に乗るが、ラッシュの時間帯。奥山さんとドアの近くにいたが、電車が揺れるたびにさりげなく私を守ってくれ、他の人が寄りかかってくるのを避けてくれた。

「おすすめのお店は和食なんだ。でも他にもいくつかあるけど、もともと何を食べるつもりだった?」

彼は私の耳元で質問をしてきた。電車の中だし、気を使って小声になるよう耳元で話したのだろうが、長身の彼が身をかがめて私の耳元で話しかけてきたので思わず胸がドキッとした。耳元で聞こえる彼の声は低めで落ち着いていた。ただの食事の話なのに、胸の中がザワザワと落ち着かなくなった。
彼は私の返事が聞き取りやすいようになのか、かがんだままでいて顔が近い。

「あ、うん……。トンカツかな、オムライスかな、なんて考えてたの」

言ってから少し恥ずかしくなった。若い女子がおひとり様でトンカツって……。だからぽっちゃりなんだよ、と思われるんだろうなと少し自虐的になった。

「トンカツ美味しいよな。じゃ、カツ屋にする? 確かツインタワーの中に美味しいところがあってさ。でもあんなオシャレなところだから来る人が限られてるんだ。知る人ぞ知る店って感じなんだ」

「え? そんなお店があるの?」

さっきトンカツと言ってしまい恥ずかしいと思ったばかりなのに、前のめりで聞いてしまった。

「あぁ。絶対に美味しいと保証する。サクサクの衣もだし、手作りのソースがなんとも言えない。話してたらお腹空いてきたな」

うん、私も空いてきた!
トンカツ好きだっていいじゃん、美味しいものは美味しいんだからと一瞬で切り替えた。
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