愛の街〜内緒で双子を生んだのに、孤高の副社長に捕まりました〜

マッシュポテトがくれた安心

* * *

カフェやレストラン、ショップが建ち並ぶ通りに軽快な音楽が流れている。

ジャグリングをするピエロの格好をした大道芸人、手品を見せる者もいる。
 
有紗と双子、龍之介はオープンカフェに座り、食事をしながらその様子を眺めている。
 
通りの突き当たりには、メリーゴーランド。子供たちが、回る木馬に乗って歓声をあげていた。
 
まるで遊園地の中か、外国の街のようなこの場所は、実は地上ではない。ベリが丘港に、停泊している外国の豪華客船である。
 
世界中を周回しているこの船が、ベリが丘港に入港したのが昨日。

客たちは下船して地上観光を楽しんだり、船内で過ごしたりしている。
 
明日の夕方には出航する予定だ。
 
それまでの間は部屋が空いていれば、逆に地上から客が乗り込むことも可能で、龍之介が、今日と明日まで部屋を取ってくれたのだ。
 
彼が休みの四日間のうちの後半を過ごすことになっている。
 
彼が休みに入った一日目と二日目は、彼は本当に双子のことをなんでもやった。着替えから食事の手伝い、おむつ替えまで。
 
彼も双子もすぐに慣れたが、有紗だけは慣れなかった。

本当にそこまでしてもらっていいのかと申し訳なくてその都度謝ってしまうので、そのたびにじろりと睨まれた。
 
子供たちにとっては、たくさん遊んでくれるのがよかったようで、一緒にいることに慣れるどころかもうベッタリである。
 
今も、幼児用のチェアに座っているのは康太だけで、圭太は龍之介の膝の上に座って、パックのジュースを飲ませてもらっている。
 
これ以上ないくらいよくしてもらっていると有紗は思う。でも彼はそれで納得でない。
 
外に遊びに連れていけないからだ。
 
今はまだふたりのことを知っているのは、千賀と運転手だけ。

彼の父親にも告げていないから、たとえマスコミが入って来られないノースエリア内の公園でも一緒に行くわけにはいかないのだ。

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