愛の街〜内緒で双子を生んだのに、孤高の副社長に捕まりました〜

チョコレートの甘い誘惑

龍之介と海辺で話をした夜から、走り出した恋心とともに働く日々がはじまった。
 
生まれ持った性分は変えられないのだとつくづく思う。また分布相応で高望みな恋をしてしまった。
 
気持ちに蓋をするのは諦めて、有紗は自分を戒める。
 
——せめて誰にも知られないようにしないと。
 
万が一にでもこの想いを彼に知られてしまったら、もう秘書ではいられなくなる。それは絶対に嫌だった。
 
男性として彼を恋しく想っているのは確かだが、それと同じくらい上司として彼を尊敬している。

たとえこの恋が報われないものだとしても、彼のために働けるならそれでいい。
 
気を引き締めて、少しも態度に出ないように……。
 
今までも、仕事の上でのやり取り以外は、それほど親しくしていたわけではない。だから難しいことではない。
 
有紗はそう思っていたのだけれど、どうしてかあの夜以来、彼の方がどこか有紗に気を許したような態度を取るようになった。
 
ある日の午後、秘書室にてパソコンに向かっていた有紗は会社用のスマホにメッセージが届いたのに気がついて手に取る。

龍之介専属の運転手からだ。

龍之介が出先から帰ってきたことを知らせるメッセージだった。
 
龍之介は、二時間ほど前に業界の会合へ出かけていった。有紗はそれに付き添わなかったのだ。
 
彼が外出に有紗を連れていくかはケースバイケース。

今日は業界の会合でとくにイレギュラーなことは起こらないから、ついてこなくていいと言われた。
 
有紗は立ち上がり、彼を出迎えるためエレベーターへ向かう。
 
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