愛の街〜内緒で双子を生んだのに、孤高の副社長に捕まりました〜
三分ほどで扉が開き、龍之介が下りてきた。

「お疲れさまです」
 
頭を下げて出迎える。

「ああ、お疲れさま」
 
足早に副社長室へ向かう龍之介について歩きながら、報告をする。

「法務部長から、面会の依頼がありましたので五時にお入れしました。それから北米課からの報告書が上がってきましたので……」
 
彼はそれを聞きながら部屋へ入りジャケットを脱ぐ。ベリが丘の街を写す大きな窓を背に座る。

「……ご報告は以上です。今から次の会議まで少し時間がありますので休憩をお取りください」
 
有紗はそう言って頭を下げる。退室しようとしたところ龍之介に呼び止められた。

「ちょっと待って」

「……はい」
 
龍之介が鞄から包装された小さな箱を出し、どこか楽しげに有紗に向かって手招きをしている。
 
不思議に思いながら彼の机に歩み寄ると、机に置かれた包みを開けた。

「お土産だ」
 
箱の中には、宝石のように綺麗にコーティングされたチョコレートが三つ並んでいる。

「リリーパリスのチョコですね!」
 
有紗は思わず声をあげた。
 
リリーパリスは、パリ発の高級チョコレート専門店だ。世界中のセレブ御用達で、日本にはここベリが丘にしか店舗がない。

「わかるのか? さすがだな。チョコが好きだと言ってただけのことはある」
 
有紗はチョコが大好きで、ケーキもアイスもチョコを選ぶ。

街中にチョコレートが溢れる二月は一年のうちで一番好きな月だった。
 
そんな有紗にとってリリーパリスは憧れの店だった。

天瀬商事に就職が決まりベリが丘で働くことが決まってすぐに見に行ったくらいだ。
 
< 43 / 178 >

この作品をシェア

pagetop