噛んで、DESIRE


そこまで言って教えてくれないのは狡い。

でもなんとなくわかってしまうのだから、かなり吾妻くんとの距離は縮まったのかもしれない。


獣目に捕らわれ、恐ろしいほどの引力に引き付けられる。

そうして彼は顔を近づけてきたかと思うと、わたしの耳をかぷりと噛んだ。


熱くて溶けそうなのに、少しの痛みが冷静さを伴わせる。

まさにいまのわたしと吾妻くんの関係のようだった。


じっとわたしを伏し目で見つめたあと、彼はニコッと笑って言った。


「杏莉ちゃんはさあ、可愛いよ」

「……っ、なんです、か、いきなり」


……また不意打ちで心臓に悪いことを。

彼からの“ 可愛い ”は慣れないから、すぐに鼓動が激しくなる。


「ちょっと愛想ないとこも、噛んだら弱くなるとこも、結構いろいろ危ないくらい可愛い」

「え……、う、え」


「だから俺、杏莉ちゃんのそばにいれたらそれで充分かも」

< 180 / 320 >

この作品をシェア

pagetop