噛んで、DESIRE
吾妻くんは、そんなことを口にしながらわたしに倒れ込んでくる。
どさり、と床にふたりで倒れ、吾妻くんはわたしのお腹に抱きついてきた。
ぎゅっと抱き締めてくる力は、さっきよりずっと弱い。
でも、それよりも弱いのは、わたしの心。
すぐに絆されて、だめになる。
「……吾妻くん」
「なに」
「なんでそんなに今日は……褒めてくれるんですか」
ふとわたしの顔を見た吾妻くんは、驚いたように目を見開いた。
「……おーい杏莉ちゃん」
「なんですか」
「顔真っ赤すぎて、心配なんだけど?」
「言わないでください」
「ここがベッドじゃなくて良かったネ。杏莉ちゃん命拾いしたよ」
「…………良かった、です」
吾妻くんは飄々としている。
その影から垣間見えるのは、孤独だけじゃない。
彼が魅せる表情はどれも美しい。
「なんも良くねえよ?」
楽しそうにそう微笑んだ吾妻くんは、キケンな香りと夜の仄暗さが似合う人だと思った。