【書籍&コミカライズ作品】悪役令嬢に転生した母は子育て改革をいたします~結婚はうんざりなので王太子殿下は聖女様に差し上げますね~【第三部完結】

たった一つの誤算 ~ラスクルSide~


 僕は主からの命でドルレアン国に来ていた。

 目の前には国王フィラメル・フォン・ドルレアンが座っている。

 顔には大量の脂汗をかきながら、我が国との取引の行方を緊張した面持ちでジッと耐えていた。


 「フィラメル国王陛下、我がレジストリック王国は石炭の独占取引権をいただきたく参ったのです。いいお返事をいただけませんと、支援も打ち切らせていただかねばなりませんね」

 「なっ、そんな事、出来るはずがない!!」

 「ハミルトン王国の支援が減り、我が国が手を差し伸べていなくてはこの国はどうなっていたか……忘れたわけではありませんよね?」

 「ぐぬぅ…………っ!」

 「では、主にドルレアン国は反旗を翻したと伝えておきますね」

 「ま、待て!!分かった、分かった!!貴国とだけ取引をすると誓おう!その代わり支援は継続してくれ……石炭を採掘するにも金が必要なのだ……!」


 この男は自分の置かれた立場が全く分かっていない。

 でもまぁ、いいだろう。

 僕が帰る頃には用済みだ。


 「もちろん。あとハミルトン王国の皆さんが来たら僕が通訳として付き添いますので……変な気は起こさないでくださいね」

 「…………っ、分かっておる!奴らの事はそなたに任せる。これでよいのだろう?!」

 「ええ、感謝いたします。フィラメル国王陛下。我が主もお喜びになるでしょう」


 僕がニッコリとお礼を伝えた後も、国王は愚痴が止まらずブツブツ言っていたけれど、相手にせずその場をあとにした。

 こんな奴の戯言などどうでもいい。

 僕は、僕のお姫様を連れて帰らなくては――――

 ハミルトン王国からやってきた者たちはヴィルヘルム王太子殿下、その婚約者オリビアと侍女のマリーベル、聖女マリア、護衛のゼフリー、伯爵令嬢イザベル、そして公爵家の養女ソフィアだった。

 彼らの素性は全て調べあげている。

 僕のお目当てはもっぱらソフィアと名付けられた少女で、彼女を我が国へ連れて帰り、僕の今の主……レジストリック現国王であるビリージュア・デ・アレン・レジストリックへ引き渡す事。

 彼女の素性は複雑に絡み合っていて、レジストリックとナヴァーロの血が入っている。

 連れて帰れば両国間の政治的に利用されてしまう事は分かっているけれど、僕に拒否権はない。

 そんな事も知らずに僕に笑顔を見せ、心を許してくる彼女にほんの少し罪悪感が生まれつつも、任務の為に彼女に近付いていく。
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