腹黒王子とめぐるの耽溺日誌
「……な、なんだこりゃ……」


「あれ、慎と雪子じゃん。珍しい組み合わせだなー」


教室のドアの近くに席がある佐原君がイヤホンを外しながら私と慎君に「よっ」と軽く手を上げた。



「あぁ……佐原、おはよう……どういう状況だよ、これ」


「さぁー?俺も最初から注目して見てた訳じゃないから知らねーけど、あの女がうちのクラスに入った瞬間倉木がキレ始めてさぁ。最初は言い合ってるだけだったけど、段々と取っ組み合いの喧嘩になってったな」


「なってったなって……お前、止めなかったのか?」


「なんで俺が止めんだよ?ただでさえ喧嘩なんてめんどくせーのに、女同士の喧嘩に俺が首突っ込んで良い事ないだろ」



それはそうかもしれないけど、よくもまぁこんな状況で涼しい顔をして見ていられるよ。

でも他のクラスメイトもそれは同じだ。
いつも大人しい倉木さんがこんな喧嘩をしてるのに、なんで揃いも揃って傍観してるだけなのか。


(まぁ、いつも大人しい子が怒る方が迫力あるか…)


実際私も止めに入る勇気はない。

チラリと慎君に助けを求める視線を送ると、慎君は微妙にうんざりした顔で二人の元へ行った。



「おいおい、どうしたんだよ倉木?一旦落ち着けって」


「離してよ慎君!!」


「ちょっとーこっちは本当迷惑してんだけどー。佳都に会いに来たのに訳わかんないイカレ女に絡まれるし…」



慎君が倉木さんの腕を掴んで引き離すと、黒髪の美少女は機嫌の悪そうな顔で苛立たしげに髪を指に絡めていた。



「あんた5組の和泉だろ?向坂になんか用でもあったのか?」


「別に〜?ただ佳都が私の家に置いてきた"香水"を返しに来ただけだけど?」



そう言って彼女はこれ見よがしに小瓶を倉木さんに見せびらかした。
< 138 / 168 >

この作品をシェア

pagetop