凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜

 喰らいついてくるエリンにクロエラは煩わしそうに顔を顰めた。男たちへ目線で命じると、すぐさま男のひとりがエリンを捕らえ、引き離しにかかる。
 邪魔者がいなくなると、クロエラは体を震わせて下を向いているルーリアの髪を掴んで、強引に顔を上げる。

「自分が何をしたかわかってるの?」
「……も、申し訳ございません」
「もちろん誰にも何もバレてないわよね」

「バレていない」と嘘を吐くことができず、そこでルーリアは口を噤んだ。黒精霊から祝福を受けていることはすでにカルロスが知っている。ここで嘘をつくのは、知った上で自分を受け入れてくれた彼に対する裏切り行為のように思えてしまったからだ。
 そのルーリアの態度に、クロエラは顔色を変える。そして、湧き上がってきた怒りをぶつけるように、再びルーリアの頬を叩く。

「今すぐ連れ出して」

 クロエラが命令すると、三人のうち一番屈強そうな男がルーリアの腕を掴んで、引きずるようにして歩き出した。
 いくら抵抗しても男の手からは逃れられず、どんどん玄関の扉が迫ってくる。ルーリアは目に涙を浮かべ、必死に声を上げた。

「……いっ、いや……行きたくない。私はここにいたい!」

 保てていた心の均衡が崩れ去り、ルーリアの体の中で光と闇の魔力が一気に力を増していく。いつもならそこで暴走が始まり、溢れ出す闇の魔力で黒精霊たちを引き寄せてしまうのだが、ランタンの中の魔法石が強い輝きを放ち始めたことで、ルーリアの中に根付いた闇の魔力が抑え込まれていった。
 唖然としているクロエラへ、すかさずエリンが非難の言葉を浴びせた。

「ルーリア様はもうカルロス様の奥様でございます。バスカイルではなく、ジークローヴ家の人間なのです。奥様に不敬を働いたこと全て報告させていただきます。カルロス様は黙っておりませんよ」
「婚姻の申し込みははっきりお断りしたはずです。それなのに勝手にルーリアを連れ出すなんて、カルロス公爵はどうかされていますね。そもそもこの娘にそこまでの価値などあり……」

 クロエラが不愉快そうに眉を顰めてエリンに言い返している途中で玄関の扉が開き、同時に、ルーリアを捕らえていた男が体を痙攣させながら、バタリとその場に倒れた。
 そして一斉に、ルーリアのために置かれていたランタンの中の魔法石が火花を散らし始めた。習得するのが非常に難しいとされている雷の魔法が発動され、魔法石が反応したのは一目瞭然で、クロエラとエリンを捕まえている男は唖然とする。

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