凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
「……帰ろうか」
「は、はい」
早々に立ち上がったカルロスがニコニコしているエリンに向かって何か言いかけたものの、言葉をため息に変える。
ルーリアは自分の胸元に下がっている魔法石に触れ、わずかに口元を綻ばせた後、ベンチから立ち上がり、ふたりと足並みを揃えるようにして歩き出した。
その翌日、いつも静かなジークローヴ邸には、雑巾や箒にハタキなどを手にした婦人たちで賑わっていた。
大勢で暮らすことがカルロスは嫌らしく、この屋敷では数日に一度通いのお手伝いさんたちがやって来て、足りていない掃除や家事などを共に行う形をとっている。
ルーリアも何かお手伝いをしたいと申し出たが、婦人たちに「嫌ですわ。奥様はお茶でも楽しんでいてくださいな」とあっさり断られてしまう。
皆が仕事をしている姿をぼんやり見ているしか出来ないのはやはり心苦しく、ルーリアはみんなの邪魔にならないように自室に戻ることに決める。
階段をのぼろうとした時、「ごめんください」と玄関の方から声がかけられ、すぐにエリンが姿を現す。
「どうしましょう。ちょうど今、回復薬を切らしてしまっていまして。ごめんなさいね」
「そうですか。わかりました。いつもいつも甘えてしまっているから、今日は天気も良いし、頑張って歩いて行くことにするわ」
困り顔のエリンに老婆はにっこりと笑って頭を下げると、足を軽く引きずりながら屋敷の外へゆっくりと出ていく。頬に手をあて「失敗したわ」と呟くエリンの元へと、ルーリアは静かに歩み寄る。
「どうかなさったのですか?」
「今のは近くで独り暮らしをしている方なのですが、見ての通り足がとても悪くて。カルロス坊ちゃんが医局まで魔法薬を買いに行くのが大変だろうと、屋敷にある分をお譲りしているのです」