凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
「ルーリア、泣くな」
困ったようにそう声をかけた時、廊下を走る足音が聞こえ、カルロスは戸口に目を向ける。その数秒後、レイモンドが勢いよく駆け込んできた。
「カルロス様、いらっしゃいますか!」
「どうかしたのか……セレット!」
レイモンドの腕には黒い影を纏いぐったりとしているセレットが抱きかかえられていて、カルロスに続いてすぐにルーリアも立ち上がり、レイモンドの元へ向かう。
「屋敷の周りに、黒精霊が集まってきていて、追い払おうと思ったら……やられた」
薄く目を開けたセレットは、カルロスに気づくとそれだけ告げて苦しそうに顔を歪めた。
「早く傷を塞いで出血を止めないと。魔力の核にまで闇の力が達してしまったら手遅れになる……セレットを調合台の上に。回復薬も」
カルロスの指示にレイモンドはハッとした顔をし、気まずそうに告げる。
「すみませんカルロス様、回復薬は今朝私が残っているものをすべて持って行ってしまいまして」
「そうか、それならすぐに医局に行かないと」
言葉を返しながらカルロスは歩き出し書斎を出ようとしたが、追いかけるようにルーリアが声をあげた。
「……あの! 私、先ほど回復薬を生成しました。それでも良かったらお使いください」
「感謝する!」
すぐさまカルロスは踵を返し、戸棚へと真っ直ぐ向かっていく。勢いよく棚の戸を開けた瞬間、カルロスは面食らった様子でわずかに動きを止める。
「これ全部、作ったのか?」
「はい」
なんてことない口調でルーリアが返事をしたため、カルロスはまた数秒固まった後、「そうか」と呟き、着ていた騎士団のジャケットを脱ぎ捨て、回復薬を手に取った。
調合台で横たわっているセレットと向き合い立っているレイモンドへ回復薬を渡すと、カルロスはセレットへと両手を翳し、光の魔力を放出する。
レイモンドは回復薬に視線を落とし、目を大きく見開きつつも、栓を抜いて回復薬をセレットの傷に少しずつかけていく。