凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜
手を叩いて興奮気味に褒め称えるエリオットとは対照的に、カルロスは冷め切った顔で不満のため息を吐く。
「昨日仕入れた物を見てみないとなんとも言えないし、一個人の意見として聞いて欲しいのですが、場合によってはバスカイル家との取引をやめることを提案します。今後、あの家が以前と同じ品質の物を生成できるとは思えません」
「……虹の乙女がいてもか?」
「ええ。品質が下がったというのなら、それが答えでしょう」
バスカイル家で思っていたよりも根深い問題が勃発している予感を覚え、エリオットは思わず息をのむ。そして、やや間を置いてから、真剣な面持ちでカルロスにお願いする。
「俺にも、お前の奥さんの回復薬を見せてもらいたい」
「今は持ってません。今度見せます」
「じゃあ仕事帰りに遊びに行っても良いか?」
「お断りします」
カルロスは嫌そうにキッパリと断り、怯んで足を止めたエリオットをその場に置き去りにするように素早く門扉を潜り抜けたのだった。
+ + +
それから三日が経ち、暖かな日差しの下、花壇に水を撒き終えたルーリアはふうっと息を吐くと、すぐに近くで雑草を抜いている老婆の側へと移動する。
「手伝います」
そう言って笑いかけると、老婆が嬉しそうな笑みを返し、そこへ「私も水撒き終わりました」とエリンも合流する。
ジークローヴ邸の庭にはこの三人の他に、近所に住む年配の男性がふたりいて、彼らは大きな鋏を手に、木々の剪定を行っている。
セレットがまだ戻ってきていないため、今もまだ庭仕事はルーリアの担当だ。
やり始めて間もない頃のこと、カルロスとレイモンドも一緒になって慣れない手つきで水やりや草むしりをしていると、老婆が屋敷を訪れた。
この老婆は以前ルーリアが回復薬を生成し譲った相手で、「先日、あのように上等な回復薬を少ない金額で譲ってくれたお礼に、私にも手伝わせてください」と申し出てくれたのだ。
それ以降、老婆は近くで暮らしている庭仕事が好きな人々にも声を掛けて、こうして度々来てくれているのだ。
ひと段落したところで、みんなで東家に集まる。賑やかに、木の実のジュースやお菓子を飲んだり食べたりし終えたところで、ルーリアは庭仕事を手伝ってくれた三人にお手製の回復薬を一つずつ手渡した。
「私に出来るお礼はこれくらいしかなくて、必要ないかもしれませんが、どうぞもらってください」
老婆と高身長の男性はとびっきり嬉しそうな顔をすると、ルーリアの回復薬を大切に抱きかかえて「ありがとうございます」と繰り返す。
そして、もうひとりの恰幅の良い男性は、驚いた様子で目を丸くさせ「これほどの物を、いただいてしまって宜しいのですか?」とルーリアに確認する。
ルーリアがもちろんといった様子で頷くと、他のふたりと一緒に深く頭を下げた。