凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜

(……私はきっと、あの男性に近づいちゃいけない)

 体の中に潜んでいる闇の魔力が騒めき出したのを感じれば、ぞくりと背筋が震え、ルーリアは怯えるように後退りした。
 建物の中からふたりの騎士団員と白衣を着た男性が飛び出してきて、「ご苦労様です!」と声を掛けながら、騎士団員たちの元へと一直線に駆け寄っていく。

 応援が来たことに、男を捕らえていた騎士団員の片割れがホッと息をついた。その少しの油断を見逃さないかのように、男が騎士団員に噛み付いた。
 痛みで騎士団員が手を離してしまったため、片手が自由になった男がもうひとりの騎士団員へと逆に掴み掛かり、さらに噛み付く。
 駆け寄ってきていた三人は、獣のように目をぎらつかせている男から少しの距離を取って立ち止まる。男を警戒しながらも、その男のそばで痛みに顔を歪めている団員たちに目を向けた時、男が大きく叫び声をあげ、両手でふたりの騎士団に触れ、闇の魔力を放った。

 黒い影に体を覆われた騎士団員たちが、苦悶の声をあげる。ルーリアはその姿から目を離せないまま、また一歩後退りすると、砂を踏んだ音が聞こえたかのように、男の顔がルーリアへと向けられニヤリと笑う。
 よろめきながらルーリアに向かって歩き出した男の右手に、濃い黒い影がまとわり始める。禍々しく蠢く影を纏った手をルーリアに向けると、その影が一気に放たれた。
 まるで自分の意思を持っているかのように迫り来る闇に、ルーリアは足が竦み動けなくなる。

(あれに捕まってしまったら全てを失ってしまう。でも、もうきっと逃げられない)

 恐怖に体を震わせるルーリアを捕えるその寸前で、影は斬り落とされた。

「いつ何時も油断するなと言っているのに」

 気が付けば、ルーリアの傍らには剣を手にしたカルロスが立っていて、口ではぼやきながらも、冷たい眼差しは男に向けられていた。
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